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Vol.181 最も原始的な脊椎動物の祖先は?

 ゲノム(全遺伝子情報)解読で大いに話題になった「ナメクジウオ」。頭と尾の区別がつかない、口はあるが顎はなく、驚いたことには心臓もない白い奇妙なその姿。最近、展示水槽とともに生きている化石展示コーナーから去った。魚類ではないのにウオと命名されているところは、サメでなくエイなのにシノノメサカタザメと言うのとどこか似ている。2階のこのコーナーには、シーラカンス、カブトガニ、ピラルク、オーストラリア肺魚などがまだ現役で活躍している。オウムガイなど水槽から退役した役者達も含めて、それぞれ独特の個性の持ち主で、この生きている化石コーナーでは話題には事欠かない。解説では、彼らに大いに活躍してもらっている。コーナーでの時代の古さはナメクジウオがダントツだったが、現在では、古生代デボン紀のシーラカンスか、それとも三葉虫を祖先にもつカブトガニだろうか。

  「正答がない出題 全受験生正解に」こんな見出しの記事が朝日新聞朝刊に載ったのは平成216月だった。山口大学は、その月に行なわれた同大学医学部医学科の3年次学士編入試験で、正しい答えがない問題を出す出題ミスがあったと発表した。この問題については、受験者488人全員を正解にしたそうである。よくあることである。同大によると、出題ミスがあったのはマークシート方式の選択問題50問のうちの1問。「最も原始的な脊椎動物の祖先はどれか」との設問で、5つの選択肢のうち「ナメクジウオ」を正解として予定していたらしい。しかし、試験終了後、試験監督をしていた同大の教員が「定説として確立した回答がない」と指摘し、出題ミスがわかったという。

 当時、海響館ではナメクジウオが展示されていた。実は、前年には「ナメクジウオ」と「ホヤ」が、脊椎動物の祖先論争で、ナメクジウオのゲノムが解読された結果、進化の順番が明らかになりナメクジウオに軍配が上がっていた。新聞にも「ナメクジウオが起源」と大きく報道されたので来館者には「ナメクジウオは最も原始的な脊椎動物の祖先です。皆さんの遠いご先祖様ですよ。」というニューアンスの解説を水槽前で何度となく行ってきたのだが、・・・・・・・・21年の新聞記事から「ナメクジウオは必ずしも最も原始な脊椎動物の祖先とは言えない」ということらしい。晴天の霹靂(ヘキレキ)とはこのことだった。新聞社によっては、「すでにゲノム解読されているホヤ、ヒトと比較した結果、脊索動物の中でナメクジウオが最も原始的であることがわかった」との記事を書いているものもあったのだが、結果的には来館者に「定説でない」ことを話していたことになってしまった。生半可な知識はすぐに馬脚を現す。

 光速超えるニュートリノ「タイムマシン可能に?」アインシュタインの相対性理論が覆るかもしれないと世界的話題となったのはつい先月のことである。まだ「定説として確立した」わけではないようだが、これから研究・実験が繰り返されれば、案外「ナメクジウオが最も原始的な脊椎動物かどか」より早く結果が出るかも知れない。とはいえ、残念ながらちょっと難解な話題ばかりだ。素人解説者としては ニュートリノのタイムマシンで56億年ほど過去のカンブリア紀か、プリカンブリア紀あたりへ行って最も原始的な脊椎動物の祖先を見届けて見たいものである。

 

(解説ボランティア 福井正嘉)

 

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