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vol.240 なんで?

 

 N水族館のボランティアの方から館へ問い合わせがあった。

内容は、仲間内でイルカの立体視について話題になり、以前、海響館のホームページに調査報告が掲載されていたのを記憶しており、資料として見ることはできないかということだった。この調査報告は、昨年ホームページから削除されたので問い合わせがあったようだ。資料が参考になるかどうかは分からないが、イルカの立体視とは面白そうな話題である。

 

 話は遡るが、開館まもなくの頃だったので、もう15年ほどになるだろうか。来館中の男性から突然たずねられた。全く予期していなかった質問だったけれども、よく聞いてみるとな~るほど、面白い質問だと感心した。それは、水中から見える空中のボールの位置は、光の屈折の関係で実際のボールの位置からズレて見えているはずなのに、何故、イルカはほとんどミスなくタッチができるのか? というものだった。男性は、トレーナーのサインで、イルカが水中から勢いよく飛び出し約6mの高さにあるボールにタッチする人気のショーを楽しまれていたのである。

 

 それで、中学校?の理科で、光の屈折の授業があったことを思い出した。例の、茶碗の中に箸を入れて、水をそそぐと、箸が水面で折れ曲がって見えることはよく知られている身近な現象だが、それをイルカの跳躍から連想されたことに驚いた。このような場合、イルカは運動能力と知能指数が高いので、そのような能力を持ちあわせているのですという答えでは、何かはぐらかされたような感じがして、尋ねた人は消化不良を起こすのではないだろうか。

 

 ボールの直下から飛び出せばズレは起こらないが、プールの容積と水深の制限もあり、仰角60度ぐらいで斜めに飛び出しているのでズレて見えているはずである。このズレを認識するのは、イルカが空中に出た瞬間からになる。軌道修正するなら、水面からボールまでの約6mの間だ。ボールにタッチするには身体をひねる訓練しか考えられないと素人なりに思っても見た。又、ズレるといってもどの程度ずれるのかもその場では推定できなかったので、答えらしい答えは出てこなかった。

 

 その後、この疑問をボランティアグループで確かめる機会があったので、先ずボールタッチの成功率を調べてみた。ほとんど成功していると思っていたが、実はそうでもなかったので何か新しい発見をしたような気分だった。ジャンプした4個体の平均は74%。ジャンプのビギナーからベテランのイルカまでの個体別では57%~94%まであった。トレーナーの指示のタイミング、ボールの設定高さ、単独ジャンプか複数ジャンプかなどの人為的な周辺要素が成功率に影響することがあるのだそうだ。また、実際に水中からどのようにボールが見えているのか街のスイミングプールに潜って天井のライトをボールに見立ててズレの感覚を実体験してみた。ライトの位置は60~70cm?ずれたように見える。

 

 そしてイルカショーの合間に水槽の中からボールがどのように見えるのか写真を撮ってみたが、水面のみだれでボールは非常に見難いことも分かった。人間ならメガネが必要な視力0.1ほどのイルカはこれを識別しているのだろう。更に他の水族館の状況も調べてみた。以外だったのは、イルカショープールサイドに設置された巨大なディスプレイで光の屈折をイラストでわかりやすく説明している水族館もあった。調査結果は海響館ホームページに「イルカの視覚・視力と運動能力の研究・調査」として連載。また概要を「あくあはーつ通信」にも投稿した。素人の未熟な調査内容だったが、質問された件の男性の目にとまることがあるかも知れないという期待もあった。あれから15年ほど経った。

 

 男性は、イルカにタッチした時の感触から、その後イルカに関する本を読み漁ったと話しておられたことを思い出した。ところで、過去にイルカのジャンプについて地元の小学2年生から寄せられた質問はなかなかなものだ。「なんで、イルカはジャンプするの?」 「どうしてイルカは高くはねるの?」「イルカはどうしてジャンプするの?」 「イルカはどうやってジャンプするの?」各質問の表現はビミョウに違うが、何故(Why)と、如何にして(How)とスルドイ質問である。イルカに聞いてみたい。 水族館は「なんで?」の宝庫だ。

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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