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Vol.227 暑さ対策

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 写真やイラストではなく、生きているケープペンギンを初めて間近に見た。国内ではフンボルトペンギンに次いで多く飼育されている種らしいが、ケープペンギンが展示されている水族館はどのくらいあるのだろうか。

先日、お墓参りのついでに梅小路公園内の京都水族館を覗いてみた。気候の良い季節なら京都駅からぶらり歩きにちょうどよい距離だが、当日は、体温に近い35.9℃の猛暑日。歩いていれば干物になりそうで、タクシーの運転手さんには近距離で申しわけなかったが車に飛び乗った。

子供の頃、梅小路といえば、今は同公園内の京都鉄道博物館になっている梅小路機関車庫で丸い転車台から扇形の車庫へレールが延びていて、面白い車庫のあるところという印象だった。数年前、「ダーウィンが来た」でも話題になったシッポウフグ(七宝ふぐ)属で、後にアマミホシゾラフグと命名されたフグのミステリーサークルのようで、上空から識別しやすいためか、アメリカの原爆投下の第一目標だったらしい。もし、その計画通りだったら、現在のこの公園や水族館、車庫の景色は別のものになっていただろう。

ケープペンギンは、猛暑の中、今ちょうど衣替え(換羽)のシーズンで、モコモコの体は見るからに暑そうだ。中には、すでに衣替えが終わったらしいのもいる。鳥にとっては毎年の大仕事の一つである。換羽中のペンギンは防水対策が十分でないから、暑いからといって水に飛び込むわけにはいかない。ふるさとの南アフリカケープタウン地方の緯度は、海響館とほぼ同じ34度付近で温帯域のペンギンだ。

ペンギンの体温は38度前後らしい。極寒の南極に住むエンペラーペンギン、赤道直下のガラパゴス諸島のガラパゴスペンギン、両者のあいだに防寒、放熱の方法にどのような違いがあるのだろうか。温帯域のケープペンギンはそのちょうど中間地的存在だが、繁殖地のサイモンズタウン(ケープタウンの南約30km)の真夏の平均最高気温が20℃前後、日本の5月頃の気候だ。この京都盆地の夏の蒸し暑さは厳しいのではと同情する。

兼好法師は徒然草で、「家の作りやうは、夏を旨とすべし」と述べているのはよく知られている。ペンギンの体は、法師の説とは逆で、どちらかと言えば、冬を旨としているように思える。時代が進み、最近の新築住宅は、耐震性のためか窓は小さく、1,2階が同サイズの箱型が目立つ。風通しの心配などはエアコンが解決してくれることになっているようだ。

兼好の時代とは異なり、「家の作りやうは、冬を旨とすべし」とペンギン仕様になっている。エンペラーペンギンの羽毛は、1㎠に12本も生えていて、その付け根の付近には柔らかく細いアフターシャフトいう綿毛が生えている上に、体重の1/3以上が脂肪層だという。ダウンコートを着た冬装束である。ガラパゴスや、ケープペンギンは、多分ここまで厚着ではないとおもわれるが・・・

ところで、この水族館のコンセプトは「水と共につながる いのち」とある。エンブレムは、一滴のしずくから波動が発生した様子を抽象化したような図柄で、水と供につながる命を印象的にデザインされたそうである。海から遠い「山城国」の水族館だから水にこだわりがあったのだろうか。どのように展示が進んでいくのか期待が膨らんだ。

「京」の付く展示が3か所あった。入口で再入館のスタンプを手に押してもらうと、最初の展示は「京の川」からスタート。オオサンショウウオのお出迎えである。途中、水量500トンの「京の海」では筒状渦巻のイワシの群れを直下から眺め、最後は幼児が水遊びをしていた「京の里山」で締めくくられていた。これらの水槽の合間に、さんご礁のいきもの、くらげ、えび、かにの他、アザラシ、イルカなど海の生物が配置されている。京料理の高級食材といわれているぐじ(アマダイ)や、夏の京都の風物詩といわれるハモとも久しぶりの面会だった。実は、ハモは前日の夕食に湯引きを我胃袋に収めていたので味覚と視覚の両方を体験することになった。

夏眠するアフリカ肺魚にも出会った。海響館のオーストラリア肺魚と異なり、胸ビレがムチ状になっているのですぐに識別できたが、本物との出会いは初めてだった。アフリカの暑い乾季では夏眠が必要かもしれないが、ここではその必要がなさそうな展示環境になっている。本物の夏眠状態だったらサプライズだった。

サンゴ礁のいきもの水槽前では、チンアナゴの長さを話題にしていた隣の若いカップルに、気が付けば三択クイズまで出して解説してしまっていた。どうも水槽前に立つと、海響館での解説中と錯覚したのかも知れない。習慣とは恐ろしい。多分、若いカップルはおせっかいなおじさんぐらいに思ったことだろう。

子供がその背中に乗れそうな数頭の巨大なゾウガメの前で休んでいると英語、中国語、韓国語、その他、耳なれないことばも聞こえてくる。イルカショーの時間がきた。しかし、屋外のショープールの暑さに足が向かまず、結局、早々と新幹線の乗客になった。山鉾巡行も近い、祇園ばやしの音が繁華街に響く暑いあつ~い午後のひとときだった。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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