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Vol.214 サプライズ2件

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サプライズ:その1

クジラの仲間は、長い間「メソニクス」がその祖先と言われてきた。来館者、中でも小学生から尋ねられたら、イルカやスナメリの祖先は、オオカミほどの大きさで、肉食性の陸生動物「メソニクス」だと疑うことなく答えてきた。ところが、その「メソニクス」は、鯨類の祖先ではなかったことを最近知った。

学者の間では、メソニクスは、鯨類とは何の関係もないと考えられるようになったらしい。先日、講演会でのことである。先祖は、カバなのだそうである。そんなバカな、とダジャレを言っても始まらないが、近年、分子生物学が進歩をとげた結果、ラクダ、イノシシやブタの仲間が分かれ、それからキリンや羊の仲間が分岐し、その後で、カバの祖先から分岐し鯨類(ムカシクジラ)が現われたという。
小学生には、陸上のオオカミより水棲生物のカバが祖先である方が、納得しやすいかも知れない。しかし、長年、クジラのご先祖は「メソニクス」とメモリーされて、来館者にもそれを伝えてきたわが脳はびっくりしている。早くメモリーをメソニクスからカバに変え上書き保存しなければ、うっかり「メソニクス」が口から出てきそうである。

「メソニクス」に初めて出会ったのは、20年ほど前「NHKサイエンススペシャル生命40億年はるかな旅」であった。それには、オオカミのようなメソニクスの絵が出てくる。当時は、これが定説だったのだろう。開館したころ、イルカのショーに感激した中年男性から、メソニクスの話題が出たことを思い出した。何を話されたかは思い出せないが、更に時代が進み、科学の進歩で第2のメソニクスが現れるかもしれない。これからは、「現在の学説では・・」と条件つきでご先祖解説をすることにした。

サプライズ:その2

先月、国際自然保護連合が、太平洋マグロを絶滅危惧2類としてレッドリスト最新版に発表し話題になったが、同時に、カラスも、「ごく近い将来、野生で絶滅する危険が極めて高い絶滅危惧種1A類」に認定されていた。1A類は、レッドリスト分類の8ランク中、絶滅、野生絶滅に次ぎ、上から3番目で、ミナミマグロやヨーロッパウナギと同じランクである。マグロやウナギの陰で、見落としてしまいそうであった。

カラスと言っても、実は鳥類でなく正真正銘の魚類フグ科の「カラス」で、1949年までトラフグと同種とされていた。新聞報道では、「カラスフグ」と記載されていたが、標準和名は、「カラス」で鳥のカラスと紛らわしい。「カラスフグ」と呼ぶところもあるらしいが、地方名である。地元では、クロとか、ガーブクとか言われている。今回は、NHKを含め地方名「カラスフグ」での報道だった。標準和名で報道し、鳥類と誤解されるのを避けるためとも考えられるが、カラス(フグ目フグ科)とすることでも良かったかもしれない。感覚的には、「カラスフグ」が標準和名で、通称「カラス」が地方名の方がすっきりするような気がするが、命名者はどうしてこのような紛らわしい名前を選んだのだろうか。
この「カラス」は開館してから2~3年の間、20尾近いトラフグに混じって2~3尾泳いでいた。尻ビレが白いトラフグに対して、黒いのがその特徴で高級魚トラフグにそっくりだから、言われなければ気付きにくい。そのお蔭で、トラフグ水槽前での小学生への解説では、「鳥の名前で呼ばれるフグがいます。① カラス、② フクロウ、 ③ カモメ」と3択クイズで子供たちの関心を引きながら、「カラス」の話を始めることが何度もあった。「カラスフグ」ではクイズにならなかった。

乱獲により、個体数が過去40年間で99.99%減少と報道されているが、絶滅に近い数字である。もう展示水槽前でカラスを見ながら子供たちにカラスのクイズを出す機会はないかも知れない。展示されていた当時、将来、貴重な存在になるとは思いもよらなかった。「カラス」には申し訳ない。もう少し丁寧に解説しておくべきだった。
ボランティア室には、開館した10数年前から各種フグの大きなポスターが掲示されているが、トラフグ、マフグ、シマフグと共に「水揚げの多いフグ類」にカラスの写真が含まれている。今回の報道からすると、当時、すでにカラスは激減していたのではないかと思われるのだが・・・。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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