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vol.213 六斑刺魨

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  いつも見慣れている水槽の説明版を見ていてふと気が付いた。中国語での説明に「六斑刺魨」とある。中国とは同じ漢字文化圏のおかげで、斑紋が6つで刺があるフグのことだろうと想像できる。ハリセンボンである。刺があるのは、この魚のよく知られている特徴の一つだが、斑紋が6か所あることに注目したことはなかった。他の魚と同様、ただ不規則な濃淡があるていどの認識で、刺が寝ているか、起きているかばかりに気を取られていた。

改めてよく観てみると、大きめの暗褐色の斑紋が左右対称に6か所ある。その斑紋のすき間を埋めるように小さな点が背中全体を覆っている。英名では、ソバカスのような小さな点と、ヤマアラシのような針に注目した名前(Freckled porcupine fish)になっている。
一方、万国共通の名称:学名は、ラテン語なので中国語のように字面から想像するわけにはいかない。ラテン語辞典によるとDiodon (2枚の歯)とholocanthus(全体が刺で被われた意)で構成されている。ただ、canthusは鉄輪、タイヤ、眼角(目じり、眼がしら)の意なので、眼も何か関連があるのかも知れない。
確かに、ハリセンボンのグリーンの眼は宝石オパールの様に魅惑的である。グリーンの中はキラキラと星砂が散りばめられているように見える。ただ、光の加減で、グリーンに見えなときがあるので、先日、子どもさん連れのお母さんには、その場で上記写真を撮り見ていただいた。

中国語には、「六斑二歯魨」という表記もある。刺よりも歯に注目し、個別の歯でなく癒合した上下各1枚で計2枚あるハリセンボンの歯の特徴をよく表している。フグ目には、約450種の仲間がいるが、歯が癒合しているか、していないかで2分されるからこの特徴から命名するのは賢明なのかもしれない。学名も歯を採用している。
ハリセンボンと同じフグの仲間で、2枚歯、尾びれが無いマンボウは「無尾二歯魨」と想像していたら「翻車魚」となっている。ひっくり返った車のような魚とはその外観からの命名だろうか。

インドだったか、数人の盲人が、それぞれゾウの鼻や牙など別々の一部分だけを触り、その感想について語り合う寓話を思い出した。触った部位により感想が異なったが、最終的には同じ物の別の部分だと気づいたという。同じハリセンボンを見ていても、針、眼、歯、皮膚と注目点が異なり多様な名前が付けられているのは、どこかこの寓話と通ずるところがある。
ハリセンボンといえば「嘘ついたら、針千本呑~ます」と指切り拳万するのは、小さな子供でも知っているが、先日、TVドラマで「指切り、噛切り嘘ついたもんは、深い川へはめよか、浅い川へはめよか、どうでもだんない 深い川へドボーン!!」とサントリーの創業者役の男優が、軽快に指切りする場面があった。
初耳だったので新鮮な印象を受けたが、大正から昭和の初め、大阪の指切りにはハリセンボンが出てこなかったのだろうか、それともドラマ内だけのことなのだろうか?小指を切ったり、一万回の拳コツや、針を呑まされるよりはちょっと優しい?罰のようだが、水泳の苦手な人には酷かもしれない。

沖縄ではハリセンボンのことを「アバサー」と呼ばれているとか、「嘘ついたらアバサー」呑~ますでは、アバサー汁をご馳走になるのかと思われ、約束は守られそうにないが、逆の効果を期待することも出来る。
海響館で展示されたハリセンボンの仲間は他に、ネズミフグ、ヒトヅラハリセンボン、イシガキフグ、メイタイシガキフグ、イガグリフグなどがいる。
呑まされるのが最も嫌なフグは、多分イガグリフグだろう。昨年1月、海響館で初展示された。嘘ついたら、「イガグリフグ呑~ます」は効果がありそうだ。
呑みっぷりというか、食べっぷりというか、海響館でその激しさの筆頭は、ピラルクだろう。何しろ、ピラルクの舌は下ろし金のように歯が密集している。ハリセンボンの針を持ってしても敵ではない。幸にも、ハリセンボンは海水魚で、ピラルクは淡水魚、当面相対することはない。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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