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Vol.211 BではなくてAですか?

h26narutobiei

「あのしっぽが剣のように細くて長い魚はなんですか?」 

車イスを押す中年の男性からの質問である。

「ああ、あれはエイですね。ナルトビエイといいます。」 

と答えると、そこで返ってきた男性の声は、

「Bではなく Aですか?」  

一瞬、関西方面からの来館者かなと思いながら、

「そうです。ビーではなくエイです」

と答えると、

「わかってもらってよかった~」

笑みを浮かべて行かれた。

3台の車イスのグループが、瀬戸内海水槽の水中トンネルを通過した時の一幕であった。

この水槽の主役は、圧倒的多数派のカタクチイワシとマイワシ5万尾の混成群である。いつも水面をおおい隠すほど大きな渦巻状円盤を描いているが、時には、趣を変えてアイスクリームコーン状に群影を組みかえる。その形は一瞬たりとも同じでないから見ていても飽きることがない。トンネルの入口に立った来館者からは、まず、彼らへの質問からというのが一般的である。
ところが、今回、彼らを差しおいて、いつも周辺を泳いでいる少数派のナルトビエイにスポットライトがあたった。10年ほど前から、周防灘で暴走族のようにアサリを食べつくす厄介者とされているこのナルトビエイも驚いただろう。アサリは、ワタリガニやイシガニも食するので冤罪ではという学者もいるが、水産庁では大型クラゲやアザラシとともに「漁業有害生物」に指定されているお尋ね者だ。

この水槽には、他にトビエイ(鳶鱏)、アカエイ(赤鱏)、ツバクロエイ(燕鱏)などエイの仲間も泳いでいるが、漢字の字面からおおよその外観が想像できる。トビエイのトビは、鳶を思わせるその外観から、アカエイは体の色そのものが赤っぽい、ツバクロエイは体板が広いところが、ツバメが飛ぶように見えることからつけられたのだろうか。

ではナルトビエイのナルの由来はと調べてみると、外観からではなかった。平成元年に和名が付けられている比較的新しい和名で、五島列島の奈留(ナル)島の沖で発見されたトビエイということで、この名が付いたという。他の種から推測して、姿形にばかりにとらわれていた。ナルほど。トビエイとは、より吻が尖っているのがその形態的特徴なので見分けるのは割合簡単である。

ナルトビエイがこの水槽に初めて現れたのは、開館2~3年目ごろだっただろうか。アカエイが水槽の多数派の主役カタクチイワシを餌にするのを見かける。グリム童話だったかに出てくる魔女のお菓子の家に住んでいるようなもので、5万尾食べ放題の環境である。やっぱりBではなくAクラスのセレブか。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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