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Vol.192 竜宮からの使者

 

 初めてリュウグウノツカイを見たのは、東海大学海洋科学博物館(水族館部門)で、記憶がはっきりしないが、平成になって数年たった頃だった。こんな生物がいるのかと感嘆、海には本当に多様な生命が育まれているものだ。その名前が幻想的でユニークな上に、魚体がとてつもなく長いというのが第一印象で、勿論、生きた展示ではない。液浸標本である。駿河湾の定置網に入ったという雄、雌のペアだった。頭頂部から出ているたてがみのような長く赤い背ビレは、泳げば天女の羽衣のようにたなびいていたのではと想像が広がる。三保の松原に近いから、天女が忘れた物だったかもしれない。

 

 その後、山口県でも萩市沖で採取されたというニュースを聞く機会が多くなったが、今年119日その「竜宮の遣い」が海響館で公開された。剥製でなく、死亡しているとはいえ、数日前まで「竜宮城」で泳いでいたと思われる生物である。それにしても、萩市沖には珍しい魚がよく揚る。昨年10月にも南方の海が生息域のナガタチカマスが巻き網にかかったと報道されていた。山口県沖の日本海では1923年以降、捕獲例は3回目の「幻の魚」だそうだ。

 

 リュウグウノツカイは、飼育が困難なためか、生きたまま長期間展示している水族館はほとんどないのではないだろうか。4mを超える長身だから水槽も限られるだろう。アカマンボウが、いわゆるフグ目マンボウ科のマンボウとは別の種であることも紛らわしいが、リュウグウノツカイが、このアカマンボウの仲間とは意外であった。稚魚は細長く、リュウグウノツカイの稚魚に似ているらしい。成魚の姿からはとても同じ仲間とは想像できない。子供達に話す機会が多い解説ボランティア泣かせの魚である。

 

 リュウグウノツカイは、細長い紐状の身体つきをしていることから「紐体類」に分類されるらしいが、仲間にフリソデウオがいる。こちらの名前も華やかだが、20045月長門市青海島で、ひらひら泳ぐ60cmほどの成魚がダイバーよってビデオに納められている。

 

 20064月に長門沖で捕獲されたリュグウノツカイの幼魚は、体長73.5cm 体重45.9gだったが、「子供もやっぱり細長かった」と当時の新聞が写真入りで報じている。アカマンボウの稚魚もこんな形をしているのだろうか。そのころ、県内での捕獲は、19992月、20041月に次いで3例目で幼魚は初めてだったらしい。更に、20101月に3m 93cmが死亡して漂着している。そして今回(20131月)は4m 34cmで生きていた。

 

 竜宮便は、季節性があるのか、成魚の漂着は厳寒の1月から2月ごろが多いようである。温暖な海に生息するといわれているので、冬の日本海は厳しいのだろう。同じ季節に北浦の海岸に打ち上げられるハリセンボンの死滅回遊とどこか似ている。ここまで成長するのにどのくらいの歳月を経たのだろうか。

 

 ところで、竜宮からどんなミッションを帯びて浮上してきたのか。命を賭けた、乙姫様から頼まれたお遣いとは? この次の竜宮便では是非たずねてみたいものだ。

 

解説ボランティア 福井 正嘉

 

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