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Vol.191 シンボルマークに込められた想い

 

 20年ほど前になるが、ボルチモア水族館を訪問した時だった。同館は、大阪の海遊館と同じデザイナーなので内部の観覧動線の印象は良く似ている。場所がインナーハーバーにありランドマーク的であるのも同様である。5階建てで最上部は変形ピラミッド型をしており、遠くからでもよく目立つ。チケット売場は1階で本館とは少し離れた位置にあり、長~いエスカレーターを上るとやっと2階のエントランスに至る。

 このエントランスを入ると中央ロビーに円柱の台座があり、その上には、多少メタボ気味の中年過ぎのおばさんが一人座っていた。見るからに時間をもてあましているようにも見える。台座は一段高くなっており、来館者は見下ろされる感じになる。昔の風呂屋さんの番台の水族館版といったところだろうか。台座の周囲には、「Ask me」と書かれている。「何でも聞いて!」ということらしい。いわゆる案内デスクと思われるが、Informationという文字は目に入ってこなかった。子供達に配慮したのだろうか。

 せっかく、Ask meと言われているので、波と魚をデフォルメしたようなこの水族館のマークの由来を尋ねてみた。もともとワシントンD.Cに建国200周年記念行事として建設予定であったが、予算不足でボルチモア市の開発計画に組み入れられた経緯がある水族館である。デザイナーは色々な想いを込めてデザインしたのではないだろうかと大いに期待していた。ところが、おばさんの口からは、「見ての通りで説明するほどのことはなにも無いよ」とそっけない返事。何か面白いうんちくが聞かれるのではと期待していたのだが・・・。この水族館は、湾の奥深いところに建てられており、記憶が間違っていなければ、確か塩分濃度が低く、水槽には人工海水が利用されていたように記憶している。湾の海面には波はほとんどなくまるで湖である。マークのデザイナーは、海の波にこだわったのかも知れないと個人的には思っているが、さてどうだろうか。

 

 施設などのシンボルマークのデザインはその施設の想いが織り込まれていることが多い。よく聞いてみるとマークにそんな意味が込められていたのかと何か発見したような気分になる。水族館も例外ではない。例えば、かの有名なモントレーベイ水族館は、ジャイアントケルプ(昆布)がデザインに織り込まれている。この水族館の周辺海域に密生していて1日に30cmも伸びる世界一長い海藻である。この水族館の主役は、魚ではなく、野生のラッコも生息しているモントレー湾の巨大昆布であることが伝わってくる。

 

 昨年、リニューアルオープンした宮島水族館「みやじマリン」は、抽象的でなくスナメリともみじが取り入れられている。昨秋、訪問時にスナメリの出産が近いと聞いたが、紅葉とともにこの水族館の想いが伝わってくる。宮島と言えばカキが頭に浮かぶ。館内にはその養殖について詳しく解説されていが、宮島=もみじ饅頭には勝てなかったらしい。

 同じく、昨年新しく開館した京都水族館は、一滴のしずくから波動が発生した様子を抽象化したようなマークで、水と供につながる命を印象的にデザインされたそうである。海から遠い水族館だから水にこだわりがあったのだろうか。ボルチモア水族館と同様に人工海水が利用されている。  鯨類の尾ビレのデザインで開館したのが海響館。昨今の若者はどうかわからないが、下関=クジラで多くの人々は、見ればすぐにバックグラウンドを理解できるのではないだろうか。  最近は、周辺の海域には2m弱のクジラの仲間で絶滅が心配されているスナメリもしばしば見られる。

 

 東京駅が全面的に建設当時の姿に改装された。この駅のシンボルマークは、あるのだろうか。構内には「ステーションコンシェルジュ東京」が設けられたと報道されている。コンシェルジュが待機し東京駅とその周辺情報の何でも承り所である。機会があれば一度プロに聞いてみたいものである。

 

 解説ボランティア 福井正嘉

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