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Vol.190 タテ・ヨコ談義

 

 魚にはタテジマ、ヨコジマ、斜めジマ、ウズマキなど多種多様なシマ模様がみられる。解説を始めるまでは、このシマ模様のタテとヨコを全く逆に理解していた。魚のシマ模様は、頭を上、尾ビレを下にした時の状態で見た場合のシマ模様の入り方を表していて我々が普段イメージするものとは少々異なる。見た目が地球重力と同じ方向なら縦で、それと直角なら横という日常感覚が、魚の模様ではタテとヨコが逆になる。頭から尾の方なら縦ジマで、それと直角なら横ジマである。来館者に、「あそこにいるタテジマの魚は・・・」と言えば、大方の人は、「ヨコジマでしょう?」と返ってくる。学術的?には合理的なようでもあるが、魚と同じように水中を自由に移動する水中潜行艇のようなものに縞模様のデザインをした場合、やはり魚のような縦横を呼称するのだろうか?

 タテのものをヨコにもしないとは、ぐうたら亭主の代名詞だが、逆に、ヨコのものがタテになると困るものもある。スーパーの現金自動支払機 お札の投入口がタテ向きのものがあった。コインはタテ方向が入れ易いが、個人的にはお札は、使い慣れたせいかやはりヨコ方向に投入するのが良いような気がする。

 ところで、同じ口でも、生き物の口は、開くとほぼ円形で、閉じるとヨコ一文字になるのが一般的である。人間の口も、歯が上下にあり、開くとほぼ円形で、閉じるとヨコ一文字である。時には虫の居所が悪く、一文字が、への字になることもあるが、通常はヨコ長である。これを、90度回転させて口が取り付けられたらどうなるだろうか。実は、その例外のような魚がいる。閉じるとタテ一(|)文字になるという。フグ目マンボウ科のクサビフグ。外観が楔の形をしているのでこの和名がついたとか。フグと言ってもマンボウの一種で似ている。口は、閉じると垂直になるという。一体、その構造と動きはどうなっているのだろうか?実際に食事中や閉じたところを見たことがないので想像するしかないが、歯はどこについているのだろうか。上下か、それとも左右か。次々と疑問が湧いてくる。

 ある水族館のHPに、口をまんまるに開いて横たわっている写真が載っていた。見ると、奥の方には上下に歯のようなものが見える。マンボウの歯は、一本毎に分かれているのでなく癒合しているが、このクサビフグのこの写真でもそのように見える。 これで閉じると垂直の線になるのだろうか?歯は上下に動き、唇は左右に動けば可能であるが、そんな芸当ができるのだろうか。生きたクサビフグを見てみたいものだが、展示している水族館があるのだろうか。100種以上フグの仲間を展示してきた海響館もまだその実績がない。飼育が非常に難しい魚らしい。

 先日、オープンラボにあるクサビフグの剥製を調べてみた。(写真) 口は完全に閉じず、半開きであったが縦長に開いている。このまま閉じればたぶんタテ一文字になるのだろう。

 一般的に、左右対称の脊椎動物は、アゴが上下に動き、エビ、カニなど節足動物は左右に動くと何かに書いてあったように記憶しているが、脊椎動物であるクサビフグの歯は、やはり上下に動くのだ  ろう。上下に動いて開き、閉じるとタテ一文字になるものなーに?とクイズになりそうである。

 

 一方、展示中のマンボウは、いつも口を開いたまま泳いでおり、閉じたところを見たことがない。餌のマンボウダンゴを与えられると吸い込むだけで、かむ動作をしているようには見えない。マンボウの仲間であるクサビフグも同じではないだろうか?歯をほとんど動かさないので口を左右に閉じることが出来るとも考えられる。マンボウには咽頭歯という喉の奥に櫛状の歯が生えている。 口でクラゲをちぎり、喉にある歯(咽頭歯)でさらに細かくして「ところてん」みたいにして飲み込むそうである。クサビフグも同じかも知れない。

 

 不思議な口の持ち主は他にもいる。カレイの仲間でササウシノシタは、 英名(Hook mouth sole)の通り、口が鉤状に曲がり腹の方に開いているそうである。摂餌のとき、口、アゴはどのように開閉するのだろうか。

 しかし、この程度で驚いていてはいけない。 なんと古代魚アノマロカリスの口には驚く特徴がある。菊の花びらのような形の歯が、内側に向いて放射状に生えている。どのように開閉するのか想像できない。何れも、自分(人類)を基準に考えるのは止めた方がよさそうである。口はパクパク上下に開くものというステレオタイプの発想はここでは通用しない。

 

解説ボランティア 福井正嘉

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