menu

loading...

Vol.188 レプトセファルス(柳葉形幼生)

 去る4月、学術研究船:白鳳丸(2代目)が海響館近くの岸壁で公開された機会に見学した。平成元年に地元の造船所で建造されている。昨年だったか、この船で研究者が世界で初めて天然のニホンウナギが海で産んだ卵を採取したことが発表され話題になった。長年の産卵場所探しは平成17年にすでにグアム島北西のスルガ海山周辺と決着が付けられているが、卵の発見で産卵場所がピンポイントで確認されたことになる。この調査には、地元の水産大学校の練習船:天鷹丸も参加して採取に大いに貢献している。

 同じウナギでもヨーロッパやアメリカのウナギは、前世紀の早い段階でその産卵場所が確認されている。大西洋はサルガッソー海のバーミューダー諸島南付近だそうだ。しかし、いまだ卵も親ウナギも捕獲されていないらしい。ここはアメリカウナギとヨーロッパウナギの両方のふるさとで、産まれた子孫は混ざることなく、それぞれ元の大陸へ帰って行く。間違って、アメリカウナギがヨーロッパの方へ行ってしまうことはないそうである。自然は人間が思っている以上に緻密で精巧に出来ている。

 

 ウナギは卵からかえった直後から川を遡ってくるまでに、卵→レプトセファルス(柳葉形幼生)→シラスウナギ→成魚という順に形や色が変化する。孵化するまでの間、海中に卵の形で漂うのはわずか1日半と超短いらしい。2日も経てば直径1.6mmの卵は幼生になっていてしまっているから大海原の中での発見は至難の業だ。船内の研究室に展示されていたのはウナギの卵でなくレプトセファルス幼生だった。写真では見る機会があったものの実物は初めてである。船内の見学コースでここだけは行列がなかなか前に進まない。幼生はシラスウナギになる前段階で、言われているように柳の葉のような形をしている。その上、透け透ルックの半透明魚でクールビズを先取りしている。説明によると、食性がまだよくわからないということだった。見学後、以前、専門家がプレ・レプトセファルス(レプトセファルスの前段階)は、口が先端にあるのではなく腹側にあり不思議な形と言われていたことを思い出し、今度は、卵と孵化直後の個体を是非見てみたいものだ。ニホンウナギのレプトセファルス幼生を世界で初めて採集したのは上記の天鷹丸である。1967年台湾南東海域でのことだ。下関市はフグやアンコウ、クジラ以外にもウナギにも色々関連があるようで、さすがに水産都市である。

 

 日本では、山芋転じてウナギになるという言い伝えがあるが、よく知られている“ウナギは泥の中から自然発生”すると言ったといわれるギリシャの哲学者アリストテレス説は、実際は泥から自然発生するではなく、泥の中のミミズから生じるといっているのにあまり指摘されていないと書いている書物もある。ミミズは柳の葉形ではないが、雨後などに湿った土の中からにょろにょろと出てくるのを見てウナギの幼生と考えたのかも知れない。

 

 柳の葉といえば、シシャモの漢字は「柳葉魚」と書かれる。柳の葉が川に落ちて魚に変ったというアイヌ伝説に由来しいるらしいが、魚の多くは柳の葉のような形が多いのではないだろうか。因みに、海響館も水生生物を想像させる、施設全体を覆う大きな屋根が設けられていて、上空からの写真では、ちょっとメタボの柳の葉形をしているように見える。

 

 ウナギは、亜種も含めると世界に19種類が生息しているらしい。ペンギン類の18種と似ている。ペンギンの場合には、それぞれ外観にわかり易い特徴があるので南極はエンペラーとアデリーだとか、南米はマゼランやフンボルトだなど、どの地域にどの種類がいるといったことも話題になりやすい。特に、ペンギン王国ニュージーランドには7種ものペンギンが生息していて、この地域がペンギンの発祥地域ではないかと推測されている。しかし、7種を覚えてもしばらくすると忘却の彼方である。一方、ウナギはと言えば、その種類を話題にすることは今までほとんどなかった。脊椎骨の数が違うとか、歯並びがどうとかといった特徴は外観からはわかりにくいところもあるためか、ウナギといえば、やはり蒲焼は国産か中国産か、それとも台湾産かといった話題に行き着くことが多い。

 

 中国産の養殖ウナギ用の稚魚シラスウナギは、ここ数年はその減少から、ヨーロッパから輸入されていると報道されている。これらの稚魚は元をたどれば大西洋のサルガッソー海生まれだ。ニホンウナギ(学名:アンギラ・ジャポニカ)ではなく、中国経由ヨーロッパウナギ(学名:アンギラ・アンギラ)の蒲焼を食べていることになる。ウナギは、1億年前にインドネシア付近にいた種が起源とされていて、19種中で6種がそこをふる里としているらしいが、ヨーロッパから輸入するにはそれなりの理由があるのだろう。

 

 日本にはニホンウナギの他にオオウナギという種がいる。大きいニホンウナギのことかと思っていたられっきとした別の種(学名:アンギラ・マルモラータ)である。しかも産卵場所はニホンウナギと同じスルガ海山周辺というから面白い。最大2m、20kgにもなる巨大なウナギだそうだが、蒲焼なら何人前かと、又してもウナギ=蒲焼の発想から抜け出せない。もしこんなジャイアント・イールが展示されれば、来館者からも当然この種の質問が連射されるのは間違いないだろう。ニホンウナギのサイズ3P(3尾/kg)相当なら60尾分である。それにしても、オオウナギの他19種全ての姿も見てみたいものだ。

 

 今年も土用の丑の日を前に、3年連続のシラスウナギの不漁の影響で蒲焼が高騰している。昨年に比べ2~3割アップしているそうである。今朝、「うなぎ激減 アフリカ産を初輸入」のニュースが流れていた。モザンビークウナギ(学名:アンギラ・モザンビカ)らしい。

 さて、今年の我が家の食卓には何れの海の蒲焼がのるのだろうか。

 

解説ボランティア 福井正嘉

PAGETOP