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Vol.187 野生のスナメリ

 

 関見台公園の桜も散り始め、この三軒屋海岸にもその花びらが、はらりはらりと降り注ぐ季節。今年は寒さが厳しかったので、やっと咲き、あっという間の花吹雪といったところだろうか。

 

 その海岸で去る4月15日、予定を1週間早めたホエールボランティア事務局主催のスナメリ観察会が持たれた。21回目になる。連日の出現で賑わっている中での観察会、前日も数時間にわたる大フィイーバーがあったと地元の常連の人々が興奮気味に話される中、13時、その再現に期待を膨らませて開幕。今日のボランティア参加者は総勢6人、観察経験豊富なベテランが多い。それに日曜日でもあり海岸に遊びに来られた一般観察者も多数でこころ強い。この海岸にスナメリの看板が設置されたり、テレビで放映されたことで一般の方々が見える頻度が日増しに多くなっている。

 

 潮汐は長潮で干満の差は大きくないが、海水温は15℃近くに上昇しており、観察時間帯は上げ潮である。昨年の状況やこの1週間の現地情報から、今日の出現確率はほぼ100%と予想。水温が上昇して餌の魚の動きが活発になってきているだろうし、太公望や漁師の情報も参考になる。待つこと約30分最初の「でたー!」の叫び。時計は13:25 を指している。観察終了間際にやっと出現して安堵することしばしばであることを考えれば、今日は早々のご出演である。予想はしたものの、確かな根拠があるわけではないので一抹の心配があったのでやれやれの心境である。一度視認できれば、そのあとは気分的に余裕を持って観察できるから人の心は不思議なものである。普通の遊泳の時は、例外もあるが、ほぼ同じ方向をしばらくキープし続けている。次に出てくるところがおよそ予想できることがある。  今日の2度目は14:55。約20分間続いた。こんなに続くことはそんなに多くは無い。それに出現の方向が一定していなかった。ランダム出現である。ここと思えばまたあちらと義経の八艘飛びも顔負けだ。あちらこちらに同時に水しぶきが散る様は、まるでマリンブルーの背景に仕掛け花火がところ狭ましとはじけているようである。逃げ惑う餌を追っているのか、それとも繁殖行動か、いずれにしても荒々しい動きの高速遊泳である。

 

 観察員の声も上ずってくる。数が多いと、どの方向の個体のことを言っているのかわからなくなる。採取データーは、天候に始まり、波浪やグレアの有無、出現区画、頭数、時間、行動様式などを記すことになっているが、目の前ではこのような数値や言葉ではとても表せないシーンが展開されている。写真は、文字より情報量が格段に多い。しかし、それでもある瞬間の切り取りである。毎回気付かされることであるが、文章や写真、言葉やデーターなどではとても表せない「何か」がある。自然が発している「何か」を受け取る感受性が試されているようでもある。米国の女性生物学者レイチエル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」で、「知ることは、感じることの半分も重要でない」と書いていることは有名であるが、自然は現場で体感するしかないと、あらためて実感した桜の中での観察会であった。

 

スナメリの跳躍(おどる)浜にも花吹雪

 

(解説ボランティア 福井 正嘉)

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