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Vol.186 タイはタイでも

 

 3月ごろだったか、近くのスーパーの鮮魚売り場、マダイ、マグロ、ハマチなどの中に、なぜか名前が書かれていない魚が売られていた。全長40cmほど、1尾¥950のタグは付いている。おばさんに聞くと「ダルマダイ」だという。本名(標準和名)は「メダイ」である。メダイは、海響館でタカアシガニと同居していたことがあった。吻部がもう少し丸いはずだが、尖っていて違う魚のようで、黒っぽい斑のようなものも見える。本当にメダイなのだろうか。はっきりしないので魚名が書かれていなかった? いや自分の覚え違いかもしれない。

 メダイと言えば、博多のとあるレストランでのことを思い出した。メニューには、メインデッシュは旬の魚とあった。具体的に今日はどんな魚かと聞くと、厨房に聞きに行ったウエイトレスは「ヒラメ」ということだった。しばらくして出てきた魚はどうみてもヒラメではない。切り身になっていてもカレイやヒラメは体の構造が他の魚と多少異なるのでそれとわかるものだ。もう一度、これは本当にヒラメかと聞くと件のウエイトレスは、又厨房にもどり聞いてきた。今度は「メダイというタイでした。」という。ヒラメより高級魚、魚の王様タイを強調しているように聞こえたが、メダイは、タイと言ってもいわゆるマダイの仲間ではない。しかし、白身の魚でなかなかの美味であった。

 展示水槽のメダイは暗くて特に冷たい水槽にいたが、どうしても目立つ同居人のタカアシガニの方が話題になりやすい。メダイに「旨い魚」と解説に加えたのは、この体験をしてからである。眼が大きい魚は深いところが生息域であることが多い。シーラカンスなどはその典型だが、このメダイも名前の通り目がずいぶん大きい。

 

 メダイ(目鯛)に金が付けば、深海魚のキンメダイ(金目鯛)で、こちらも目が大きくてしかも黄金色に輝く。魚体の色も、地味なメダイに比べハデハデの赤色だ。名前にタイが付くが、この魚もスズキ目のタイ科とは異なる。しかし、お値段の方は、マダイ並み、いやそれ以上の高価格魚である。耳石(魚の平衡感覚と聴覚に関与する器官)の採取を兼ねた食事会で、薦められてこの魚の目玉にトライしたことがあるが、味の方はうわさの通りであった。もちろん「旨い」である。

 

 キンメダイはまだ展示された記憶がないが、日本海水槽には、一見よく似ている魚が泳いでいる。来館者からは「キンメダイ?」と何度か聞かれたことがある。残念ながらと言ったら、この魚に失礼かもしれない。実は「エビスダイ」である。しかし、エビスダイはキンメダイ目だから、科は異なっていても相当遠い親戚みたいなものだろう。

 それにしても魚名にタイが付くいわゆる「あやかり鯛」は実に多い。海響館で展示されてきた身近なところで、今や高級魚の仲間入りしているアマダイや、コショウダイ、イシダイ、イシガキダイ、フエダイ、フエフキダイ、ゲンロクダイ、カゴカキダイなどなど、銀座と名が付く「あやかり銀座」が多いのとどこか似ている。

 日本では、お祭り、お祝いなどで尾頭付きの鯛が出てくる機会が多い。2万種類以上いるといわれている魚類なのに、スイーツも鯛を模した「泳げ鯛焼き君」だ。魚の幼児語も「タイタイ」という地方が結構ある。よほどタイにこだわりタイ民族のようで、博多の人から「そうタイ、そうタイ」と聞こえてきそうである。

 

(解説ボランティア 福井 正嘉)

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