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Vol.182 辰年・リーフィーシードラゴン

 

 開館して数年の頃だったか、この生物を初めて見たときはとても生き物とは思えなかった。波間に漂う海藻そっくり、ストローのような口で一瞬にしてエサを吸い込むように捕食する。生きたイサザアミが与えられていた。このエサがまた高価らしい。タツノオトシゴと同じヨウジウオ科の仲間で、リーフィーシードラゴン(Leafy Sea Dragon)と名付けられている。名前の通り、葉っぱが漂っているようにも見える。生息海域はオーストラリアの南の13℃前後の低水温海域。刺激を与えないようにフラッシュ撮影はダメ、水槽前はガードロープで1mほどオフリミットという制限付きの展示で、水槽内も暗いので怖がる小さな子供さんがいた。ある日、ブータンから日本の着物に似ている民族衣装姿の学校の先生が来館されたことがあった。知識としては知っていても、本物の衣装を見るのは初めてであった。この先生がリーフィーシードラゴンを見て、同国の国旗にはドラゴンが描かれていると言われていたのを思い出す。

 

 国旗に竜の絵があるのは、英連合王国(UK)のウエールズ旗ぐらいで珍しい。調べてみると、黄色とオレンジ色の背景の中央に白い竜が描かれていた。どこかリーフィーシードラゴンに雰囲気が似ている。この国の国旗を意識して眺めたのはこのときが初めてだったので何か新しい発見でもしたような気分だった。

 

 そのブータンから先日国王夫妻が来日された。前の月には、同国の幻の蝶「ブータンシボリアゲハ」が約80年ぶりに日本人調査隊によって発見されたばかりである。

 

 報道によると、国王は、東日本大震災にあった小学校での講演で「皆さんの中に人格と言う竜がいて年を取って経験を積むほどその竜は大きく強くなる」と話されたとか。期せずして来年は辰年、12年で一廻りする干支の巳年41日にオープンした海響館も、来年は一廻り最後の年:「辰年」を迎える。ボランティア活動も多くの経験を積んできたが、「竜」は大きく強くなっただろうか。正月には毎年干支に関連した生物が展示される。海響館にとっては初めての辰年。どんな生き物が展示されるのだろう、期待が膨らむ。歳魚は他に、アジアアロワナ(龍魚)やリュウグウノツカイ(竜宮の使い)などが頭に浮かぶが、前者はワシントン条約による規制や価格、後者は希少・飼育の難しさなどなどハードルも高そうである。竜は12干支の中で唯一の想像上の動物、タツノオトシゴに始まり、属は異なるがタツノイトコやタツノハトコなどいろいろ似たような水生生物が出番を待っているかもしれない。

 

 幻の蝶「ブータンシボリアゲハ」ほどではないが、渡りをすることで話題の蝶:アサギマダラが台湾方面への南下途中の10月中旬、我が家の庭のフジバカマにも立ち寄り、その素晴らしい模様を見せてくれた。来春、北上する頃は、辰年真っ只中である。

 

 (解説ボランティア 福井 正嘉

 

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