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Vol.184 関門海峡にペンギン!?

 

 洋上を流れる巨大な氷塊、その上に点々と黒い影、グーッとズームで近づくとそれはペンギンの群れ。野生の生き物などのテレビ番組でよく見られる映像である。手元にある新聞にも真っ白なおにぎりにゴマを散りばめたかのように、南極半島からの氷山にヒゲペンギンが群れている。氷山ではないが、白っぽいグアノ層(※)に覆われた小島に、フンボルトペンギンなど温帯ペンギンの群れがいれば同じような光景が見られることになる。ペンギン村の温帯ゾーンでは、南米チリのアルガロボ沖100mほどにある小島(フンボルトペンギンのコロニー)を模して再現されているが、直径約200mのこの島も現地の写真でみるとグアノに覆われて島全体が白っぽい。  実は、スナメリ観察地点である長府沖にも巨大な白い岩礁に点々と黒い影を発見!海峡にペンギン?と思ったら、ペンギンと同じ海鳥の仲間、鵜飼いでおなじみのウミウ(海鵜)だった。この白い岩礁は、関門海峡東口近くに位置する満珠・干珠で有名な島、干珠島の一部で、満潮時は干珠島から離れて島になる。海図にはコウゴウ岩とある。神功皇后に因んだ名称らしい。

 

 スナメリの観察を続けている当館解説ボランティアでもある上崎さんが、望遠カメラで撮影していて見つけた。最初は海水の塩分で岩が白くなっているのかと思っていたそうで、ウミウが群れていたので彼らの糞であることがわかった由。ウミウはこの海域ではカモメとともにしばしば見かけられ、スナメリ発見の目印になる有難い存在だが、こんな近くに彼らのコロニーがあったのである。

 カモメは海面では胴部がほとんど浮上しているが、ウミウのそれはカモメより沈めていて、長めの首は潜水艇の潜望鏡のように見える。潜るには有利な体つきになっているのだろう。逆に離水するときは不利だが、空中を飛ぶことは出来る。けれども、上空を飛ばず海面すれすれに4~5羽が一直線になって低空飛行していることが多い。

 

 ペンギンは、ウミウより潜水能力は高く、数十から数百メートルとウミウは足元にも及ばない。その代わり、離水は高々数メートルジャンプする程度である。ペンギン村では「大昔、飛んでいたよ」とイワトビペンギンが岩の上をピョンピョンと跳んではいるが、もはや昔のようには飛べない。代わりにと言うか、インカアジサシが、ペンギンの頭上をこれ見よがしに飛んでいる。それを見た来館者からの一声「あっ、ペンギンが飛んでる」

 それにしても、ペンギンとウミウ、体型がなんだかよく似ている。足の位置は体のかなり後方に付いているため、地上では必然的にペンギンのように突っ立った姿勢をとる。遠方から見るとまるでペンギンに見える。ところが、潜る時、推進の原動力はまったく異なる。ペンギンは小さいが硬いオールのような翼(フリッパー)であるのに対して、ウミウは大きな水かきが付いた足である。翼の方は水の抵抗を避けるためきちんと折たたまれて胴体に密着させている。ペンギンとウミウの泳ぎ方は、アシカとアザラシの関係にも似ている。アシカは前足(前鰭?)で、アザラシは後足(鰭脚)である。  ところで、海峡のウミウは何処から飛来するのだろうか。下関市豊北町の日本海に浮かぶ壁島はウミウの渡来地として国指定天然記念物に認定されていて、冬季には数千羽のウミウが飛来するらしい。ここから遠征してくるのかも知れない。それにしても、越冬地がどうして、温暖な瀬戸内海ではなく、寒風吹き荒れる冬の日本海なのだろうか。ウミウに一度尋ねてみたい。

 

 干珠島のコウゴウ岩には、もうひとり住人がいた。海のタカといわれるミサゴが大きな巣を作っているのが見える(写真左最高部)。ミサゴの漁は一見の価値がある。彼らの漁場は目の前の中の瀬、沖の瀬やその付近の海域だ。50~60m上空を小さな円を描くようにホバリングしていたかと思うと、ゴムひもが付いていないバンジージャンプのようにフリーフォールで、スーと垂直に落下し海面にバシャーッ!と大きなスプラッシュとともに突入、次の瞬間、何かを捕まえたようにも見えるが、惜しくも残念という時もある。

 これを数回繰り返す。見ていて飽きない。  因みに、ミサゴの英名オスプレイ(Osprey)は、マスコミ報道などで、沖縄配備で話題になっている米軍の垂直離着陸機の愛称でもある。飛行機とヘリコプターの両方の機能を持っていて、ミサゴとどこか似ているが、海峡のオスプレイは魚を捕るだけで平和そのものである。(「大漁」の詩人:金子みすずに、水面下の魚にとっては、平和どころか・・・、といわれそうだ。)とは言え、海峡の一隅でのスナメリとカモメの競合する捕食活動、海鳥のグアノ形成の様子やオスプレイのバンジージャンプ漁などなど、季節ごとに現れる自然界の変化から生物の息使いが感じられる。

 

※グアノ層:海鳥などの糞が長期間(数千年~数万年)堆積し固まったもの。ペルー・チリなどのものが有名。ペンギンが巣として利用するグアノは上質の肥料となるため、大量に採掘された。その結果、多くのフンボルトペンギンが住む場所を奪われた。

 

(解説ボランティア:福井正嘉)

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