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Vol.177 想 定 外

 

 昨年2月27日、南米チリで超巨大地震(M8.8)があった。半世紀前にも同国は、観測史上最大(M9.5)の地震に見舞われている。3月1日のペンギン村オープン直前で、ちょうど南米チリの首都サンチャゴのメトロポリタン公園付属動物園園長が、海響館での講演のため来日中のことであった。南米チリ付近には、3,000~9,000羽ほど(5月8日付朝日新聞)の野生のフンボルトペンギンが生息しているが、エルニーニョや、餌のアンチョビの減少、混獲等で絶滅が心配されている種である。海響館のペンギン村特別保護区は、このチリのフンボルトペンギン生息地の一つであるアルガロボの沖合150mほどにある小さな島を模して作られているそうである。南半球なので季節は逆であるが、緯度はここ海響館とあまり変わらない。20世紀に各地で肥料として採取されたグアノ層(海鳥類の繁殖地で糞が堆積した土地)が、この小島には残っており、ペンギンはそれを掘って巣にしているが、地震には脆弱だろう。ペンギンたちの生活環境も更に悪化したのではないだろうか。

 

 今年2月22日、今度は、ニュージーランド南島・クライストチャーチで大地震(M6.3)である。ニュース映像では中央広場に面したカセドラル(大聖堂)が破壊されていた。ウエブサイトで見るとすぐ近くに水族館がある。30数年前、このカセドラルを訪れたころには水族館はなかったように思うのだが多分、同様に被害を受けたに違いない。ニュージーランドには、18種いるペンギンの中、7種ものペンギンが生息しており、お札にはキガシラペンギンが画かれているペンギン王国である。因みに、2番目と思はれるのが意外にもイギリスで、5種類も生息している。勿論、本国ではなく、フォークランド戦争で有名になったアルゼンチン沖のイギリス領フォークランド諸島である。ペンギン類はニュージーランドから発生し世界に広まったと言われている (ペンギン大百科) 。5,000~6,000万年前のペンギンの化石はクライストチャーチの郊外のワイパラで発見されている。コガタペンギンの亜種とも言われているハネジロペンギンの生息しているモトゥナウ島はそんなに遠くない。地震の影響はなかったのだろうか。  この「あくあはーつ通信」をここまで書いていたところで、超巨大地震(M9.0)が東日本を襲った。2週間ほど前にはクライストチャーチで大地震があったばかりである。よりにもよって、このようなタイミングで起こるとは、あまり評判が良くない言葉だが「想定外」であった。

 

 地震の被害を受けた水族館で記憶に新しいのは、16年前の阪神・淡路大震災での甚大な被害を受けた神戸須磨水族園である。実は、このことにも少し触れたいと思っていた矢先である。今回は、次々に流される生々しい映像に驚愕してしまい筆が進まなくなった。海岸近くに位置しているマリンピア松島水族館、アクアマリンふくしまなどが被害を受けていることは想像に難くなかった。

 

 地震ではなかったが、平成11年9月、台風18号の直撃と高潮で被災した旧下関水族館も例外ではなかった。今年、3月出産したゴマフアザラシのマルが関門海峡へさらわれ、屋外の濾過槽が全面的に浸水し多くの魚類が犠牲になった。数匹のクエの巨体が水槽内でゴロンと転がっていたのが今も目に浮かぶ。前日から停電を予想して準備されていた非常用発電機も小型トラックの上で浸水してしまっていた。閉館に追い込まれた旧水族館は、翌々年、海響館として誕生したが、あれからもう十年が過ぎた。

 

 災害は、忘れる前にやってくる。

 

(解説ボランティア 福井正嘉)

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