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Vol.169 飛ぶ? それとも 跳ぶ?

 

 岩の向こうの水中からピョコンととび出し、着地するペンギン。それも、水中から見える岩の高さは、光の屈折の関係で実際より高く見えているはずなのに、着地点より極端に高くとび出すこともなくセイフティ・ランディングする。  歌舞伎なら「ペンギン屋、待ってました!」と大向こうから掛声が聞こえてきそうである。何度見ても飽きないほどスマートな、芸術的着地で、床運動アスリートならの金メダリスト級である。しかも、これだけの超スーパー演技を軽々とやってのけたのに、やったーっ!とか言って、ガッツポーズなどしないところがまた素晴らしい(やったら、もっと素晴らしい?)。

 鳥が、大空から舞い降りる時は、上から下へ重力方向へ着地するが、ペンギンが水中から上陸する時は、下から上に向かって重力に逆らいながら着地する。どちらが高度な技術が必要なのだろうか。ペンギンがその昔、大空を飛んでいた証拠には、ものの本によると、フリッパー(翼)を動かす強力な筋肉を支える胸の竜骨突起、運動をコントロールする小脳、尾羽を支える尾椎骨などいろいろあるそうだが、こんな敏捷な動きが出来るのは、飛んでいた証の一つではないだろうか。

 先日、何羽ものペンギンがこの華麗なパーフォーマンスをしているものと思って眺めていたら、実は、1羽のジェンツーペンギンだけが何度も繰り返していることに気がついた。各ペンギンには、フリッパーに識別用のバンドが巻かれている。このバンドを見れば個体識別ができるようになっている。繰り返していたのは、確か3色中左端が緑色だった。5回ほど、手前の水中から岩にとび上がり、トコトコと少し歩いて、向こう側からとび込み、と言うよりボチャンと落ちて、岩の下の水中を通って戻り、又手前の水面から再び岩へとび上がる。どちらかと言えば、とび込みよりとび上がる方がスマートである。とび込みは、足をキックしてないようなので、人間のような飛び込みスタイルにはならないのはしかたがない。

 来館者にこのことを紹介すると、それは是非見てみたいと言われる。しかし、このような時に限って、岩の上の1mほどの間を行ったり来たりして全くとび込む様子がない。先ほどまで、あれだけ何度も活発にダイビング&ランディングを繰り返してしていたのに、飽きてしまったのか、それとも大向こうから声が掛からないからか。別名オンジュン(温順)ペンギンとも言われるジエンツーペンギンだが、こういう時は名前を返上して欲しいものだ。

 一般的に、このような場面で、来館者が待たれるのは3分間ほどが限度のようである。関門海峡潮流水槽の渦潮の発生が約10分間の周期で出現する。その5分前頃に、もう5分ほどで出現しますよとアナウンスすると、待たれる人はまばらだが、これを、3分前頃に言えば、ほとんどの人が待ってみようということになる。初期のインスタントラーメンが3分間待つんだよ、といったキャッチコピーを流していたが、顧客心理をよく読んでいる。渦潮は確実に再現されるが、ペンギンのジャンプは気まぐれなのでなおさらである。イルカのように、サインを出せばジャンプしてくれると助かるが、解説者としてはペンギンに祈るしかない。 とは言え、このジャンプのどこが素晴らしいのかと言われれば、それは素晴らしいと「感じる」からとしか言いようがない。ペンギンの種類、形態や生息地といった「知識」を伝えるだけでなく、「感動」を伝え、それを共感してもらうのはなかなか難しいが、それが解説者の役目の一つでもある。

 

 閑話休題、着地点の岩は、水面より3040cmほどの高さである。仮に30cmとすると、30cmとび上がるためには、水面からのとび出した時の速度は、秒速約2.45m (時速8.8km)が必要となる。すなわち、水面から頭を出して約0.12秒で目の前の岩の上にすっくと立っている計算になる。ぼんやり水槽を眺めているときに、このスピードで突然目の前に現れると、初めての人は驚くことになる。

 デジカメの連写モードで撮ってみた。1秒間に8枚の速度なので0.125秒毎に1枚撮ることになるが、これはペンギンが30cmジャンプする時間とほぼ同じである。これでは、頭を出した瞬間に撮れたとしても、次は着地するまで撮れないことになる。途中の空中を飛翔?しているところはダメかもしれない。 ダメもとでとんでくれるのを待つこと30分ほど、やっと1羽のジエンツーペンギンがとんでくれた。写真で見ると凄い勢いで離水している。それにもかかわらす、ほとんどオーバーシュートしていない。見事と言う他ない。

 

 実は、大きな声では言えないが、魚類展示課の西山さんや進藤さんによるとペンギンも弘法さんや猿のように、着地失敗ということがまれにあるそうで、そういわれると、今度はそのズッコケペンギンのパーフォーマンスを是非見たくなった。

 ところで、このペンギンのランディングは、「跳ぶ」と書いてよいのだろうか、それとも、鳥だから「飛ぶ」が正しいのだろうか。大昔は「飛んでいた」が、現代では「跳んでいる」のかも知れない。

 

(解説ボランティア 福井正嘉)

 

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