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vol.242 宇宙を感じる~ぅ !

 秋は毎年多くの小学生が社会見学で水族館を訪れる。団体案内も忙しくなる季節である。開館当初は大人の団体を案内することがほとんどだったが、小学生の申し込みが多くを占めるようになったのはいつの頃からだろうか。

 団体で観光に来られる方々の中には、解説ボランティアがあることをご存知ない方々も多くおられることだろう。

 

 開館した年の4月に初めて案内したのは広島からみえた観光団体だった。数班に分かれての案内だったが、あれもこれもとつい力が入りすぎて、気が付けば予定時間を5分ほどオーバーしてしまいツアーコンダクターに厳しいお叱りを受けたことがあった。そんなに遅れた感覚はなかったのだが、後のスケジュールが詰まっていたのかも知れない。以降、案内のはじめに時間の余裕を確かめる習慣がついた。

 

 先月、市外の小学校からの総勢100人近くの1年生を案内する機会があった。9時半過ぎからスタートしたツアーも終盤に近づいた。一息入れるため歩を止め、何か尋ねたいことない?と言うと、1人の男児がため息をつくように「おなかへった~」と。

 まだ11時前である。今日は朝早くからバスに揺られた上に、ツアーは他のグループと交錯しないように通常の順路でないコースを巡っているので疲れも出てきたのだろうか。「もう疲れた」のサインのようだ。

 

 予定ではツアーの最終コーナーは、11時からペンギン村で人気の「ペンギン大編隊」を見て締めくくることになっている。2部構成の前半のインカアジサシの空中給餌を見てから早速会場のダイビングホールへ案内したが、左の観覧席は既に先着の小学生で満席状態だった。幸いにもちょうど右手のソファー席が空いていたのでここで観覧することになった。

 

 アナウンスが始まり、それまで三々五々泳いでいたペンギンが集団でスピードを上げ始めた。水面には波が弾け、水中はペンギンが縦横無尽に右往左往と飛び回る動きで無数の水泡が飛び交う。水槽は泡で白濁した状態だ。

 この様子を見ていた男児が、少し離れたところにいた私に何か話しかけてきた。しかし、アナウンス嬢の声と周りの騒音でよく聞きとれない。

 少し近寄って顔に耳を寄せてみると、内緒話しのように小声でいった。

 「宇宙を感じる~ぅ」男児は何かすごく感動した様子だ。

 今宵は中秋の名月。何んとタイムリーな感想だ。昨夜の宵待月、秋の澄みわたった宇宙を望遠鏡で覗いていたのだろうか。いやいや、宇宙のビッグバンの直後の状態でもひらめいたのだろう? 白濁した泡の塊は、暗黒の宇宙に漂う銀河に見えないこともない。

 

 実は、ショーが始まる少し前、ペンギンは何の仲間だろうと質問していた。お魚の仲間と元気よく答えた女児がいたが、この時、鳥の仲間と説明していたので、「ペンギン大編隊」は鳥のように見えるという感想を予想していたのだが、大人のステレオタイプな発想だった。

 

 こどもは天衣無縫、どの子も豊かな感じる心を持っている。何が飛び出すかわからないから案内の度に新しい発見がある。

 やっと昼食の時間、12時少し前だが集合場所のお弁当広場は立錐の余地もない状態だった。今度はこちらが「疲れた~」「おなかへった~」

解説ボランティア:唐櫃 山人

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