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vol.251 水族館の魚は美味しそうか

 昔、日本で活躍するホンコン出身の芸能人が、神社などで「ハト」を見て美味しそうと話していたことを思い出した。日本では牛肉が好きな人でも、動物園で「牛」を見て旨そうと思う人は少ないのではないだろうか。では、水族館の「さかな」はどうなのだろうか。

 

 開館当初、博物館法に則った教育施設でもある水族館で展示品の魚を食べる話題は何となく避けていたように思う。ところが、来館者、特に年配の女性からは、そんなことにはお構いなく食べる話題がでてくるので避けるわけにはいかないこともある。

 たまたま、当時の展示部長のMさんとの立ち話でこの話題が出たので聞いてみたところ、本館では魚を食べる話題大いに結構とお墨付きを得たので、以来、積極的に話題に取り入れている。

 

 おかげで、ニセゴイシウツボが展示されているサンゴ礁水槽前で高知からの女性には、ウツボはタタキにするのが一番だとか、博多からの来館者には、沿岸の生き物水槽のアブッテカモ(スズメダイの地方名)が美味しいとか、あのトゲトゲのアバサー(ハリセンボン)が沖縄でよく食べられていることも教えていただいた。

 漁師の人からは、九州場所の話題から、ちゃんこ鍋、高級魚のクエ、唇まわりが旨いなど食べる話題へ進んだことが思い出される。

 

 ただ、トラフグ水槽前では、高価、毒の有無(食べられる種か)といった話題が多く、美味しいかどうかや、料理法などの話題は少ないような気がするが、フグ料理屋を紹介してと言われた男性もおられた。水槽で遊泳する大きなトラフグを見て食べたくなられたのだろうか。

 

 鑑賞用と思えるような小さなカラフルな魚でも、このさかな食べられますかと尋ねられることがある。これは美味しそうで食べてみたいから出た質問とは思えないのだが、自然の一部を切り取った水槽の魚の生活環境より、日常食卓に上る魚そのものに関心が強いためか、魚=食の発想になるのではないだろうか。

 

 毎年5月ごろは小学生が社会見学(遠足?)に出かける季節のようで、先日も、70余人の新一年生を案内する機会があった。いつもより早起きしバスに揺られてきたためか、入館したころには多少疲れがでていたようで、解説ツアー出発の前に、点呼していると「お腹へった~」と聞こえてくる。まだ9:40だ。朝、食べて来たばかりではと聞くと、食べてこなかったらしい。朝寝坊だったのだろうか、事情はよくわからない。

 

 スケジュールでは、11:00から昼食の時間になっている。あと1時間と少しのガマンと言って、ちょっとリックサックを持ってみるとお母さんの愛情がこもった弁当や飲み物は結構重い。その重い荷物は預け、トイレも済ませていよいよ出発。

 子供の魚嫌いはずいぶん前から話題になっているが、参考のため、どの魚が美味しそうで食べたいと思ったか、ツアーの最後に聞くのでよく観察しておいてと言ってスタートした。

 

 途中、代表的なマダイのイラストをベースにマンボウやフグ、ヒラメのヒレの特徴、その泳ぎ方などと進んだところで、マンボウは食べたことがないのでどんな味なんだろうと話題を食に向けてみた。子供達の反応は今一つだったが、後ろから見守っておられた校長先生が鶏肉のような味だったと助け舟。

 魚はスーパーでは切り身がパックされて売られているものが多い。巨大なマンボウは子供達にとって食べる対象ではなかったのではないだろうか。

 

 個人的には水族館で美味しそうと思うのは魚より、実はワカメ。2階の藻場の世界水槽では毎年3月ごろにはグングン成長する姿がみられる。葉を広げ主軸部が2~3cmほどの幅になりメカブが拳ほどになってくるといつも旨そうだと思う。この海藻はどんな料理にも相性が良い。シーズンには頻繁にワカメ料理が我が家の食卓に上るのでそう感じるのかも知れない。

 

 ツアーも最終コーナーに近づいたので、どの魚が美味しそうと思ったかと最初に話していた課題について尋ねてみた。

 どんな魚が飛び出すか大いに期待して耳を大きくしていたのだが、何も返事がない。先ほどまで質問だらけで誰に何を答えたらよいかわからないぐらいだったのに・・・この静けさはどうしたのか。1人の女の子が、かすかな声でタイと言ったのが聞こえたような、聞こえなかったような・・・あまり魚を食べることには関心が無さそうである。と言うよりも説明不足で魚の名前が分らなかったのかも知れない。いやいや、最初にそんな課題など聞かなかったよといったような雰囲気だ。

 

 どうもこの設問は1年生には適切ではなかった。次の機会には、回転ズシではどのお魚(寿司ネタ)が好きか聞いてみる積りである。それにしても令和時代の子供達、大人になって水族館で泳ぐ魚を見て、美味しそうだという感覚をもつだろうか。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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