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Vol.210 ウナギ受難の日

 

 梅雨のこの季節、毎年のことながらが、6月の末頃から半夏生が庭の片隅で、その最上部の葉の一部だけを真っ白に化粧し始める。不思議な植物だ。食べ物の方も季節毎に話題になるバレンタインデーのチョコレート、クリスマスのケーキ、そして、土用の丑の日はウナギで、今年もその日が近い。ウナギのニュースが取り上げられる機会も多くなってくる。

 平賀源内の発案といわれているこの日にウナギを食べる習慣で、ウナギの受難が始まったといえば、「うなぎ屋に“本日丑の日”という広告をだしてみたらとマーケティングアドバイスをしただけ」と源内先生は言い訳するかもしれない。

  毎年、蒲焼の値段とともにウナギの減少、絶滅の危惧が叫ばれるが、今年はちょっと事情が違う。ついに「ニホンウナギ」は国際自然保護連合(IUCN)で絶滅危惧種に認定されることになった。認定されても、まだ捕獲や販売を禁止されたわけではないという人や、次は、国際商取引が規制されるワシントン条約に認定されるのではないかと心配する人もいる。この機会に、ここ10年余をウナギに関する新聞記事で振り返ってみると、ニホンウナギの謎のヴェールが次々とはがされる10年余であった。海響館がオープンした頃は、まだウナギの産卵場所はナゾに包まれていた時代である。

 

・平成13年3月31日付の記事のヘッドラインでは、

ウナギの故郷グアム島沖? “ナゾ”の産卵場所か、 成魚らしき姿東大など撮影

 

 ナゾに包まれているウナギの産卵場所を探す東大海洋研究所のチームが、グアム島沖の深海で成魚らしい魚の姿を撮影。画像だけからでは断定できないと報じている。

 

・平成16年9月15日付のヘッドラインは、

ウナギはどこ生まれ? 「新月の海山」産卵を追う。 川暮らし実は少数か

 

 従来、冬期に産卵するものと思われていたが、シラスウナギの耳石日周輪調査から 夏季7月が産卵盛期で、しかも暗い新月に集中して産卵するという。今年7月の新月は27日。今頃、親ウナギは、数千キロ彼方の産卵場所へ大急ぎで向かっていることだろう。そして、その2日後の29日は、土用の丑の日である。一方でウナギが懸命に再生産し、他方では人間が大量消費を繰り返しているが、近年このバランスが、産卵後の生育環境(乱獲、地球環境など)も含め崩れているといわれている。

  一生を海で過ごすウナギの方が主流ではないか・・・こんな説が浮上、ウナギの耳石の調査から、川で育つのは平均16%という。10 匹中、8~9匹は一生海で過ごす海水魚ということになる。産卵回遊中のウナギの耳石中の微量元素から、そのウナギがいつごろ海にいて、どのくらいの期間淡水で暮らしたか、おおよそのことがわかるのだそうだ。河を遡上するウナギより、海や河口の汽水域で一生をすごすウナギの方が多いとは、今までの自分の認識と大いに異なるので水族館での解説も考慮しなければならない。

平成18年に入ると、いよいよ産卵場所が絞られるニュースが続くようになる。

 

・平成18年2月23日付のヘッドラインは、

ウナギはグアム沖生まれ 東大研グループ特定 誕生直後の幼生を捕獲

 

 長年ナゾとされていたニホンウナギの産卵場が、グアム島の北西約200キロに「スルガ海山」にあることが突き止められた。これまで半世紀を超す調査にも関わらず判明していなかった。

 実は、この発見は、前年の平成17年の6月の新月に14年ぶりに大量に採取されたプレレプトセファルスと呼ばれる誕生直後の幼生で、全長5mm前後のウナギ目の仔魚を解析した結果、孵化後2日しか経っていないニホンウナギであることと確認された。ニホンウナギは、受精から1日半で孵化するので、約4日前に産卵されたことになる。言い換えれば、時速1kmほどの海流を4日遡れば産卵場所にたどり着くことになる。産卵中の親ウナギとその卵が見つかったわけではない。

 「14年ぶり」で思い出すのは 生きたシーラカンスの最初の発見から、次の発見まで懸賞金まで出して捜索された例があるが、14年後の昭和27年であった。広い大洋での探査作業は根気と幸運が必要だ。

約1週間後、平成18年3月3日付でも再び、

ニホンウナギの産卵場所特定 期待膨らむ「完全養殖」

グアム沖「スルガ海山」 半世紀越え東大が決着 自然の生態解明目標

そして、土用の丑の日の前日、平成18年7月22日付では、

ウナギ今年は高値 スーパー:1~2割高 専門店:我慢、

稚魚不漁 輸入も減って原油高

 

養殖池の水温維持(28~30℃)にボイラーは夏でも使用するというから、原油高は厳しい。

 

・平成20年9月23日付のヘッドラインには、待望の親ウナギの捕獲である。

ウナギ生態解明に光 太平洋産卵域で親捕獲

 

 ニホンウナギの親魚が、マリアナ諸島沖の産卵海域で、初めて捕獲されたと水産庁が22日に発表。この年の6、8月に深さ200~350mから親ウナギ4匹をトロール網で捕獲している。翌年の平成21年7月14日記事でも2年連続マリアナ沖で8匹 天然の親ウナギ捕獲と報道。

 

・平成23年2月2日付のヘッドラインは、待望の「卵」の字が躍る。

うなぎの卵捕獲 世界初、幼生もいたマリアナ諸島沖

 

 天然のニホンウナギが海で産んだ卵が、世界で初めて日本の研究チームによって発見された。1日付の英科学誌ネイチャーコミュニケ―ションに報告された。平成21年5月、調査船で大型プランクトンネットを引いたところ、ウナギとみられる複数の卵が入り、DNA鑑定で31個がニホンウナギの卵と確認された。 前記のように、産卵後、卵の状態で浮遊するのは、たった1日半である。その後は孵化してしまうからあの大海原での卵の捕獲は、よほど事前に細部予測をたててネットが引かれたのだろう。

・平成25年2月1日付のヘッドラインには、

環境省「レッドリスト」 ニホンウナギ絶悦危惧種

 環境省は、「近い将来に野生での絶滅の危険性が高い」として絶滅危惧IB類に指定。世界の「レッドリスト」(国際自然保護連合)に掲載も時間の問題か?(事実、翌年掲載された)

 

・平成25年4月19日付のヘッドラインには、

ウナギの保護 天然ものしばらくお預けに

 

 ニホンウナギの産卵場を突き止めた元東大海洋研究所の塚本教授は、ウナギの激減の理由として「取りすぎ」「河川環境の悪化」を挙げ、特に近年のシラスウナギの大不漁は「海洋環境の変化」が直接の原因らしいと。又、産卵場に旅立つ親ウナギを一匹でも多くするため、河川湖沼での天然ウナギの全面禁漁もやむをえないと提言。養殖ウナギも今のように大量消費するのでなく、かってのように「ハレの日」のごちそうとして居住まいを正して賞味したいと。同感である。

 秋田の男鹿水族館訪問時に初めて見た、3年間の禁漁と資源管理で甦った秋田の県魚「ハタハタ」のように、しばらく全面禁漁は効果があるはずである。ただ、塚本教授によると、ウナギは寿命が長いので禁漁期間は10年、20年我慢しなければならないと。その間は、高値ウナギ対策として、すでに人気が出始めているウナギの蒲焼き代役(ナスの蒲焼重、鶏肉、豆腐、アナゴ、サンマなどの蒲焼、)で我慢することになるのだろう。

 

・平成26年6月10日付ヘッドラインには、

ニホンウナギ絶滅危惧種に 国際取引制限の恐れ レッドリスト改訂版に掲載へ

 何年も前から危惧されてきたことが現実のものとなった。  国際自然保護連合(IUCN)は、12日に発表する、「レッドリスト」改訂版にニホンウナギを「絶滅危惧種」として掲載する方針を固めた。昨年の平成25年2月1日付記事でも、日本の環境省「レッドリスト」でニホンウナギが絶滅危惧種に指定されている。関係者の間では、シラスウナギの不漁を受け、宮崎県や鹿児島県では親ウナギの禁漁期(10~12月)を設ける動きも出てきている。

 先日、スーパーの鮮魚売り場を覗いてみた。熊本産や鹿児島産に混じって、中国産とあるのは、ニホンウナギか、それともヨーロッパウナギ? インドネシア産とあるのは、多分ニホンウナギより体長が短く、皮が厚いといわれるビカーラウナギだろう。2年後に南アで開催される条約会議の結果「ウナギ、ワシントン条約の絶滅危惧種に指定」の文字が新聞の1面トップに躍ったら、このスーパーの景色はどのように変わるだろうか。

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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