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Vol.205 モドキ 似て非なるもの

 

 ホテル業界が、食材偽装問題で揺れている。4~5年前にも「アブラボウズ」を、高級魚の「クエ」と偽装して販売していた卸売業者が話題になったが、また同じようなことが繰り返された。 78年前だったか、北浦から見えた若い漁師さんが、海響館の「クエ」を見て、「9万円は下らないなぁ。九州場所のころは、もっと値上がりするよ」といわれていたことを思い出す。 新聞によれば、業界では小エビのことを芝エビというから、小さなエビであるバナメイエビを芝エビといったと弁明されているが、業界の習慣を一般の消費者に向かって理解せよといわれても困ってしまう。 不可解なのは、恣意的でなく誤記だったという弁明。店側に都合がよい「誤記」が免罪符のごとく使われている印象がある。  

 魚介類の名称は、標準和名の他に地方名や、上記のようにその一部の業界や地域だけが習慣的に使っている名前などがあり本当に複雑である。 ナゴヤフグと呼ばれるフグがいる。これは標準和名ではなく地方名だから、ショウサイフグもナシフグも、コモンフグもナゴヤフグと呼ばれる地方があるから紛らわしい。 高級魚のトラフグをマフグと呼ぶところがある。別に標準和名がマフグというフグがいるから間違いということになるが、消費者は、マフグと思って買ったら、それより高級魚といわれるトラフグだったと上記偽装問題とは価格的には逆の誤記になる。 消費税の税込と税抜き表示の併記のように、食品の素材はすべて標準和名を併記して表示するとこのような混乱は少なくなるはずだが、商習慣は一朝一夕には変われないのかも知れない。

 以前にもこの欄に書いたが、レストランのコースメニューに白身の魚とあったので魚名を尋ねたことがあるが、実際に出てきた魚は明らかに別の魚だった。これも一種の偽装ではないかと勘ぐりたくなる。 何という魚?とたずねられる機会が少ないからか、レストラン側もあまり意識していないではないだろうか。 実は、芝エビやバナメイエビの名前は今回の問題がでるまで全く知らなかった。これを機会にエビの名前を尋ねるお客が多くなるのではないだろうか?  

 11月初め、日経に「絶滅したペンギンモドキ、実はペンギンか」の報道があった。 モドキというからには、似て非なるもので、ペンギンではないわけである。 ここでは偽装表示など無縁の世界で、最初からはっきりと「モドキ」ですと表示している。 海響館にペンギン村が出来たとき、このモドキが北九州の博物館に展示されていることを知ったので、一度見てみたいと思っていた矢先である。北九州や下関の彦島からもその化石が発見されているから特に身近に感じる。11月中旬、ちょうど研修で上記博物館を訪問したので実物を見ることができた。 ペンギン村の骨格標本とそっくりで、素人の目には、どこからみてもペンギンの骨格にみえる。  

 報道によれば、ペンギンモドキは約3,500万年前から北半球の太平洋岸に生息していたが、気候変動などで約1,700万年前に絶滅し、これまでペリカンの仲間と考えられてきた「ペンギンモドキ」が、実は脳の形態からペンギンの仲間である可能性が高いことが分かったらしい。 上記博物館が所蔵するペンギンモドキの頭部化石3個をコンピューター断層撮影(CT)で解析し脳を再現。小脳の幅や形を現生の水鳥と比較すると、ペリカンよりもペンギンに類似していたというわけである。  

 もしペンギンと同定されたら、3,500万年前、海響館付近の海にもペンギンが泳いでいたことになるのだろうか? 時代はシーラカンスが、南アフリカの種とインドネシアの種に分かれた原因と推測されているインド大陸がインド洋を横切って北上していたころと重なる。 小脳は、目や平衡感覚からの情報と飛行動作を間断なくモニターし、飛行中の筋肉の動きを調整するところで、鳥として同定する特徴の一つらしい。 そういえば、ジエンツーペンギンが水中から飛び出し、岩の上に見事にピタリと着地する動作は、鳥以外の生物には見られないのではないだろうか。その流れるような華麗な動作は何度見ても見とれてしまう。  

 モドキは魚類にもいる。ドジョウ科のアユモドキ、アジ科のブリモドキ、ハタンポ科キンメモドキなど何れも名前の通り、似て非なるものである。モドキが付くと美味そうだとはお世辞にもいえない名前になる。 「ガンモドキ」という豆腐を加工した揚げ物がある。この表示は、よく知られているように雁の肉ではなくその「モドキ」ですよと明示しているから正直だが、今ではそこまで考えて食べている人はいないだろう。 最近は、医療界でも「ガンモドキ」が話題になっている。といっても揚げ物ではなく「癌モドキ」理論である。モドキだから、癌とは似て非なるのということになる。とはいえ「あなたは、癌ではなく、癌モドキです」と宣告されたら、安堵と同時に、突然変身して癌にならないのだろうかと素人は考えてしまうのではないだろうか。ペンギンモドキが本物のペンギンになる可能性があるように。  

 今年も、早や年の瀬になった。先日、人間ドックを受診した。次回は、脳ドックで「ボランティア」か、それとも「ボランティアモドキ」か、CTMRIでわかるなら調べてもらいたいものだ。最近、記憶を司り、来年の干支と同名の「海馬」付近が怪しいと自覚しているのだが・・・。

 

解説ボランティア : 唐櫃 山人

 

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