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Vol.198 ガラスの向こう側

 

 いよいよ今年9月には決定される2020年オリンピック開催都市をめぐって東京、マドリード、イスタンブールの3都市が競っている。東京は勿論、イスタンブールは下関市の姉妹都市であるのでこちらも応援したい。「聖フランシスコ・ザビエルの下関上陸の地」の碑が海響館の近くにあるが、スペインのマドリードにも頑張って欲しい。
 こちらはどのようにして決められるのかは知るよしもないが、昨年、ケープタウンで開催された世界水族館会議、次回2016年の開催地は、カナダ・バンクーバー水族館らしい。同館は、旧下関水族館の開館と同じ年の1956年(昭和31年)にオープンしているので、開催時にはちょうど還暦の水族館となる。旧下関水族館に海響館を加えた年齢とほぼ同じである。

 20年ほど前、この水族館を訪れる機会があった。

 同館は、バンクーバー港の南側にある市街地から2kmほどのところにある半島のように突き出した周囲約10kmの広大なスタンレー公園内に、海と森に囲まれた静かな環境の中に建てられている。近くのマリーナーにはヨットや、クルーザーがところ狭しと係留されている。時折、上空には小型の水上飛行艇がみられる。市街地中央付近にウオーター空港があるので、ここから遊覧飛行?に飛び立っているらしい。公園の北側の港の入口には、関門橋のような吊り橋が架かっており、対岸までの距離や景観も関門海峡の雰囲気とどこか似ているところがある。
 バンクーバー水族館は、民間の非営利団体により設立・運営されていて、市からの税金は投入されていないSelf-supportingであることを自負している。そのためか、入館料、寄付、ギフトショップの売上げ、メンバーシップなどに加えて、水族館としてはユニークな取組みではないかと思われるが、館内をレンタル事業に活用している。夜間、区画毎とか、フロアー毎に分けてパーティなどに貸し出されるが、全館の場合C3,000 (当時のレートで約23万円、入館料は約700) でドーセント(案内人)が展示の解説も行うサービスもあるとパンフレットには書かれている。

 玄関前では、デフォルメされたキラーホエール(シャチ)の巨大なモニュメントが迎えてくれる。キラーホエールは、この水族館のシンボルマークでバッジにも円形の中に描かれている。近くの海では、キラーホエールウオッチングが盛んなところだから当然といえば当然である。エントランンスの平屋風の建物は、特に特徴があるものではなかったが、ギフトショップを兼ねており、帰りはここを通過しないと出られない仕掛け?になっている。展示は、旧下関水族館と同様に汽車窓式が主流で、とても半世紀近くも経過しているとは思えないほど清潔感ある。展示水槽前の薄暗い中で、照明に照らされひときわ目立つカラフルな魚名や解説パネルが今での記憶にはっきり残っている。
 特に印象の深かった熱帯雨林コーナーでは、夏季なのにその展示区画だけエアコンが観客側も熱帯の気温32℃に設定されているということで、とても暑かった記憶がある。目からだけでなく五感全てを駆使した体験型展示といったところだろうか。体験はできなかったが、カタログには1時間毎に熱帯雨林の空が暗転し雷を伴うレインストームが再現されるらしい。動物達がどのような反応を示すかを見てみようと書かれている。      

 そういえば、思い出した。海響館が開館してしばらくした頃だった。

 巨大な淡水魚ピラルクがいる熱帯雨林についての、中年婦人の質問である。「熱帯雨林というのは、高温、高湿度の環境のはずなのに、この熱帯雨林はカラカラに乾燥しているような印象を受ける」というもの。水槽前でなく話したいことがあると言ってオープンラボまでこられたのでよほど気にされていたのではないだろうか。言われてみれば、そのように見えないこともない。擬岩や本物と見間違うほどの植物でアマゾンの熱帯雨林を再現されているが、主に皮膚で感じる湿気や気温を、目で体感するのは難しい。
 実際、室内温度約28℃(水温は27℃)で、今年の梅雨明けの猛暑に比べれば少し低いが、内部に入るとむっとしていて湿度84%と結構高い。 エアコンの効いたアクリルガラスのこちら側には伝わらない。同じ環境に身をおかないとその場で起こっていることを正確に把握することが難しい例であるが、世の中には、同じようなことが沢山あるのではないだろうか。

 実は、このバンクーバー水族館ではボランティアが活動している。

 訪問当時のボランティアは350人ほどと聞いていたが、最近のHPを見ると、2011年には1000人が活動して、その総活動時間は103,000時間に達し表彰されたとある。海響館のホエールボランティアの中に、ここでボランティアを経験した人がおられた。民族や言語が多様な国なのでボランティアも国際色豊である。 

 60年近いこのバンクーバー水族館も長寿であるが、モナコの海洋博物館(水族館を併設している)のように、100年の歴史を持つ現役水族館もある。水族館大国の日本でも魚津水族館が今年3月、開館100周年に合わせリニューアルオープンしている。2001年に開館した海響館も22世紀までがんばってほしいものである。

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

 

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