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シーラカンス展よもやま話~標本大移動の巻~

7月8日より、29年度夏季特別企画展「日本上陸50周年 初めてやってきたシーラカンス」を開催しています。企画展の主役は50年前日本に初めて持ち込まれたシーラカンス標本!今回は企画展準備のため海響館バックヤードに保管していたこの標本を会場で展示するまでの準備についてのお話です。

 

●50年間腐らない標本

普通、常温で保管されている魚の体はすぐに腐ります。シーラカンス標本は50年以上保管されていますが、生き物の体を腐りにくくするホルマリンという薬品に浸されていたため、良い状態を保っています。ホルマリンは、浸した生物標本を100年以上保存することも可能で、とても便利な薬品ですが、私たちにとって猛毒!保存容器を開ければ、強烈な刺激臭と痛みで近くでは息をすることも眼を開けていることも困難!標本の移動に際しては、マスクや手袋を装着し、安全面に細心の注意を払う必要があります。

 

● 移動!

標本は普段海響館2階で展示されていますが、企画展直前は海響館4階にて保管していました。我々のミッションは、標本を4階から1階の企画展会場の水槽に移動すること!この際、ホルマリンから自分たちを守りつつ、標本を傷つけず、ホルマリンをこぼさないようにせねばなりません。相手は世界的にも貴重な標本!失敗は許されません!!

 

① 4階から1階へ

4階に保存されていた標本は、あらかじめ標本の入った強化プラスチック製水槽ごと海響館の業務用エレベーターに乗せ、1階企画展会場の裏側まで運んでおきます。

 

②バックヤードから企画展会場へ(準備編)

ここで、標本の入った水槽が大きく、会場に入れることが出来ないため、バックヤードから展示水槽までは一度標本を取り出して運ぶことに。そのため、当日閉館後、施設・作業員(その日出勤の飼育員の総出!)への装備を整えました。

 

・標本が通るコース、水槽をブルーシートで覆い、送風機で企画展会場全体を換気

・ホルマリンは高気温で多く気化するため、企画展会場はしっかり冷房をかけておく

・作業する人は長手袋、カッパ、防毒マスク、ゴーグルを着用(ハエかな?)・・・(図1)

・これらを装備していない人は移動当日企画展会場へは立ち入り禁止

 

 

③バックヤードから企画展会場へ(作業編)

いよいよ標本を取り出します。ゴーグルをしているので、眼の痛みなどはありません。標本をシートで支え、シート内からホルマリンを抜きつつ、持ち上げ、そのまま水槽へ運びます(図2・3)。水槽前にはあらかじめ足場を設置していたので、慎重に持ち上げつつ、水槽に入れていきます(図4)。ウロコが取れないように、ヒレがおれないように、慎重に慎重に・・・最も緊張する作業です!!

 

④微調整

水槽に標本を入れた後は位置を微調整。この作業が意外と大変です。ホルマリンの入った水槽に身を乗り出して前後左右の位置を調整し、台座に固定します(図5)。とても大事な作業ですが、目の前にはホルマリンの海・・・緊張しました。

● まとめ

こうしてシーラカンス標本の展示が始まりました。海響館は水族館であるとともに博物館相当施設。標本取扱いの知識は私たち飼育員も心得ていますが、ここまで大きく、かつ貴重な標本の移動は滅多にありません。大きな標本を傷めることなく、かつ運び手にも安全でいかに効率よく運ぶべきか、皆で調査し、話し合って作業したことは貴重な経験となりました。10月9日まで開催されているシーラカンス展、是非足をお運びください。

 

魚類展示課 荻本啓介

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