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とあるクラゲ大好き少年との交流

数年前のある日、来館者よりクラゲに関する質問があるとのことで、私はいつものように受付カウンターへ向かいました。そこには少年とお母さんが待っていました。

「この小さなクラゲの名前は何ですか?」クラゲの入った小瓶を差し出し、キラキラした眼差しでこちらを見ている少年の姿がとても印象的でした。「オベリアクラゲの仲間だね。」と答えると、「飼い方は?エサは?」と、立て続けに積極的な質問。海で採集したクラゲを家で飼いたいとのことでした。クラゲ飼育担当だった私にとってはとてもありがたい質問で、水族館で行っている採集や飼育方法等を伝えると、少年はうれしそうに帰っていきました。

数ヶ月後、「また採れた!名前教えて!」と、興奮した少年が再び受付に。どうやらクラゲの採集、飼育を続けている様子で、とてもうれしくなりました。また小さなクラゲだったので、顕微鏡で調べてみるとエダクダクラゲでした。さらには、2008年のノーベル化学賞受賞のきっかけとなった、ブラックライト(紫外線)を浴びると傘の縁が光るオワンクラゲに惹かれているようで、「ブラックライトを当ててみて欲しい」との要望が。

「まさかね・・・」と思いながら試しに当てて見ると、何と生殖腺がしっかりと光るではありませんか!調べてみるとオワンクラゲ以外にも光る種類はいるようです。「すごい発見!」と伝えると、少年は満足げに帰っていきました。

それにしても立て続けに小さなクラゲを採集し、さらにすごい発見につなげるなんてたいした少年だなーと感心していたある日、お母さんからメールが届きました。さらに小さなクラゲを採集したようで、「ゴトウクラゲだと思うのですが…」という文面に写真が添付してあります。よく見ると、ゴトウクラゲの特徴である、枝分かれした生殖腺が写っています!日本での発見例は数件で、採集海域での発見はおそらく初。詳しい研究者の方からも、「ゴトウクラゲでしょう。」との回答が!再び大発見となりました。

クラゲを採集する時は傷つけないように海水ごと柄杓で掬います。小さなクラゲの場合は狙って採れないため、入っているかどうかわからないまま、何度も海水を掬うことになります。そのような根気のいる作業を繰り返した結果が、このような発見につながったのでしょう。

この話はここで終わりではありません。さらに数ヶ月後、何と「これまでの成果を自由研究としてまとめたところ、市の研究発表会へ出展され、最優秀賞をいただきました。」というとんでもないメールが!その文面を見た時の興奮は今でも忘れません。返信する手が震えたのを覚えています。

後日内容を見せてもらうと、数年間のクラゲ採集、飼育の成果が事細くまとめられ、エダクダクラゲの発光やゴトウクラゲの発見がトピックスとして盛り込まれていました。さらに、少年らしい純粋な感想が添えられており、「質問に細かく答えてくれたこと、励まし続けてくれたことに感謝」と私に対する思いも綴ってくれました。私の方こそ大感謝です。飼育員をしていて良かったと心から感じた瞬間でした。小さなクラゲを採集するため、諦めずに何度も何度も海水を掬う。その純粋さをいつまでも忘れてはならないと感じました。こちらこそありがとう!

皆さんも、生き物についての質問をしてみると、我々飼育員との素敵な出会いがあるかもしれませんよ。

魚類展示課   石橋 將行

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