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No, 013:アマミホシゾラフグ ②

「No. 013:アマミホシゾラフグTorquigener albomaculosus Matsuura, 2014 ②」

 アマミホシゾラフグはフグマニアの部屋No. 002でも解説いたしましたが、それ以降に判明した研究結果についてお話しします。

 アマミホシゾラフグはフグ科シッポウフグ属というグループの仲間で、トラフグやクサフグが含まれるフグ科トラフグ属とは別のグループです。トラフグ属魚類は、食用になっている種もあってか研究が盛んに行われ、養殖技術も確立しており、仔稚魚の形態についても多くの報告があります。しかし、アマミホシゾラフグが含まれるシッポウフグ属については、その報告が世界中でもありません。

 仔稚魚の形態が不明だと、アマミホシゾラフグの仔稚魚が採集された場合でも、アマミホシゾラフグと認識することができません。アマミホシゾラフグの仔稚魚の形態がわかっていると、仔稚魚の時期にどこで過ごしているのかなどがわかり、生活史を調べるために非常に重要です。そこで、しものせき水族館では数年間前から鹿児島県の許可の元、奄美大島でアマミホシゾラフグの卵を回収し、調査研究を行ってきました。通常卵から産まれた仔魚は、ほとんどの個体が死亡し、成魚まで成長できる確率は非常に低いものとなります。そこで、成魚ではなく、卵を採集することにしました。育成した結果、いくつかトラフグ属の仔稚魚と異なる点がわかりました。まず、フグ科魚類の多くの種には体表に小さな棘があるのですが、トラフグ属の場合は、まず頭と胴体の腹面と背面に小さな棘ができますが、アマミホシゾラフグの場合、背面にはできず、頭部の腹面と目の下の頬の部分にできました。それと体型も大きく異なりました。アマミホシゾラフグとトラフグ属のクサフグとを比較した結果、頭長,眼径,胸鰭基部における体高,上顎の先端から肛門までの長さはアマミホシゾラフグが大きく、肛門における肛門部分の体高,尾柄の長さはクサフグのほうが大きいことがわかりました。その他、成長するにつれどのような体色変化があるのかについても明らかにすることができています。その成果は、2022年6月24日に、魚類学雑誌早期公開版で出版されました(園山・畑.2022)。

 これまでにこれらの調査を進めるにあたり、アマミホシゾラフグの産卵周期についても同時に調査を進めていました。卵があるタイミングで現地に潜らなければ、そもそも採集することさえできません。
アマミホシゾラフグの繁殖サイクルは、産卵床を作り始め、完成までに約5日間、その後約1日間で産卵、卵保護を約5日間、そして新しく産卵床を。。。の繰り返しです。1繁殖期中(およそ4月から7月)に同じオスが複数回繁殖しているようです。産卵や産卵床を作り始めるタイミングは潮汐に関係していますが、例えば必ず「大潮の時にふ化をする」というわけではありません。

 繁殖行動は潮汐に関係するので、新暦のカレンダーで見ても毎年同じ日時に産卵するわけではありません(新暦のカレンダーは潮汐とは関係ないため)。そのため、潮汐、つまり月の満ち欠けに関係する旧暦(太陰太陽暦)のカレンダーであれば、毎年、ほとんど決まった日付で繁殖をしていることがわかりました。※下記にアマミホシゾラフグの示したカレンダーは旧暦のものです。
 

イシサンゴの仲間のキクメイシは、月光が産卵を抑制していることと、太陽光と月光を受ける時間帯の間に暗闇の時間帯が生まれると月光の抑制効果は失われ、これが産卵を誘導する合図となることが報告されています(Lin et al., 2021)。

 少なくとも私はカレンダーを見ていないと、決まったタイミングで決まった動きをすることはできません。生き物の持っている不思議な力にいつも驚かされています。

【引用文献】
園山貴之・畑 弘己.2022.飼育下におけるアマミホシゾラフグの欄と仔稚魚の成長およびフグ科他種との比較.魚類学雑誌,DOI: 10.11369/jji.22–007
Lin, C. -H., Takahashi, S, Aziz, Mulla, A. and Nozawa, Y. 2021. Moonrise timing is key for synchronized spawning in coral Dipsastraea speciosa. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, DOI: 10.1073/pnas.2101985118

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