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No,004:イガグリフグ

No,004:イガグリフグ Cyclichthys spilostylus (Leis and Randall, 1982)

 

 

 イガグリフグはフグ目ハリセンボン科メイタイシガキフグ属に属します。Leis and Randoll (1982) ではイシガキフグ属Chilomycterusとして記載されましたが、その後Leis (1986)によりメイタイシガキフグ属Cyclichthysとされています。メイタイシガキフグ属は世界で3種が知られており、本種は棘が黄色く、棘の根元が黒い斑点で覆われているのが特徴です。ハリセンボン属のハリセンボンは通常は棘を畳んだ状態ですが、膨らむと立ちます。その長さは、体長10㎝の個体でも20mmを超えます。対してイガグリフグは、棘の根元が3から4本に分岐しており、畳むことができないため常に立たせたままですが、その長さは体長41.2cmの個体でも9mmしかなく、ハリセンボンと比べると非常に短いという特徴があります。

 分布域は、紅海を含むインド洋と西太平洋の熱帯域で、日本では高知県、沖縄県(石垣島、沖縄島)、日本海側では新潟県、富山県、島根県でも確認されています。報告された場所を見ると、日本に広く分布しているように思いますが、多くの場所で採集されているわけではなく、採集記録のある場所が限定されており、稀な種であると言えます。

 まだ正式には報告されていませんが、漁師からの情報提供と標本調査の結果、山口県下関市の日本海沿岸でもこれまでに2個体が確認できました。2017年に生きた状態で網にかかり海響館に持ち込まれましたが、残念ながら死亡しています。その体長は360mmでした。また、萩博物館に収蔵中の標本を確認したところ、2006年に海岸に漂着していた個体が、同じハリセンボン科のイシガキフグとされていましたが、再同定の結果、本種であることがわかりました。記録されている体長は172mmでした。並べてみると印象が大きく異なります。もしかすると、日本でも分布域が広いイシガキフグと混同されている可能性も考えられます。イシガキフグとイガグリフグは属が異なり、イシガキフグが含まれるイシガキフグ属とイガグリフグ属とは尾柄背面の棘の有無で見分けることができます。また、この2種は各鰭の模様が明らかに異なります。イシガキフグは各鰭に黒色の斑点があり、イガグリフグは斑点がありません。この斑点はホルマリンやエタノールなどに漬けた液浸標本にしても残っているため、鰭があれば容易に見分けることができます。

 ハリセンボン科魚類は水槽内産卵の記録がありますが、野生下での産卵や繁殖行動は確認されていません。本種は水槽内産卵の記録さえもありません。ではどこで繁殖をしているのでしょうか。日本で得られた最大の個体は沖縄県産のもので、体長が412mmあります。雌雄は不明ですが、成熟していてもおかしくない大きさだと思われます。それに対して、最小の個体は島根県から得られた体長61.6mmのものです。世界的には熱帯域に多く分布していることから、おそらくそこで繁殖を行い、下関で採集された個体は対馬暖流の影響で流されてきた可能性もあります。

 採集するのはなかなか難しいですが、いつか繁殖生態等を解明できればと思います。

 

引用文献:
Leis, J. M., and J. E. Randall, 1982. Chilomycterus spilostylus, a new species of Indo-Pacific burrfish (Pisces, Tetraodontiformes, Diodontidae). Records of the Australian Museum 34(3): 363-371.
Leis, J. M. 1986. Diodontidae. In Smith, M. M. and Heemstra, P, C, eds. Smith’s sea fishes. 903-907. Sourhern Book Publisheres Ltd., Johannesburg.
Leis, J. M. 2006. Nomenclature and distribution of the species of the porcupinefish family Diodontidae (Pisces, Teleostei), Memoirs of Museum Victoria, 63(1): 77-90.
松浦啓一 (編).2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,秦野.Xiv+127pp.
Keiichi Matsuura, Keiichi Sakai and Tetsuo Yoshino. 1993. Records of Two Diodontid Fishes, Cyclichthys orbiculatis and C. spilostylus, from Japan. 魚類学雑誌, 40(3): 372-376.
Keita Koeda and Katsunori Tachihara. 2015. Records of the spotbase burrfish, Cyclichthys spilostylus (Tetraodontiformes: Diodontidae), from Okinawa-jima Island, Japan, Fauna Ryukyuana, 25: 1-15
中江雅典・町田吉彦.2007.高知県初記録のイガグリフグ(フグ目ハリセンボン科).四国自然史科学研究,4:48-50.
山口勝秀・多久和剛史.2014.島根県におけるイガグリフグ(フグ目ハリセンボン科)の初記録,ホシザキグリーン財団研究報告,17:339-341.
土井啓行・本間義治・園山貴之・石橋敏章・宮澤正之・米山洋一・酒井治己.2014.新潟県佐渡島より記録された北限のイガグリフグ.Journal of National Fisheries University, 62(2):87-89.

 

魚類展示課 園山貴之

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