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No, 014:ホシフグ
「No. 014:ホシフグ Arothron firmamentum (Temminck and Schlegel, 1850)」
ホシフグはフグ科モヨウフグ属に属し,体長35 cmに成長します(松浦,2017).最近,山形県や新潟県の日本海でホシフグが大量に打ちあがっているというニュースを見かけます.山口県では大量に打ちあがっているという話は聞きませんが,日本海側の定置網には大量のホシフグが入っている情報を聞きます.
2023年1月18日,海響館でも山口県日本海側の定置網で一度に大量に入ったホシフグを入手しました.生きてはいますが,かなり弱っている個体が多い印象です.水族館に持ち帰ったのですが,死亡した個体も多くいましたので,解剖して少し調べてみました.
調査したホシフグは20個体で体長,体重,生殖腺重量,性別の確認を行いました.結果は,平均体長140.35 mm(131.1–148.7 mm),平均体重66.9 g(52–90g),平均精巣重量0.07 g(0.04–0.10 g),平均卵巣重量0.28 g(0.19–0.46 g)でした.
福井・本村(2017)では,ホシフグが鹿児島県トカラ列島の臥蛇島沖で群れ産卵をすることが報告されています.その報告では11月17日に,体長140.8–155.6 mmの個体が得られており生殖腺重量は記載されていないものの,精巣卵巣共によく発達していたとされています.しかし,今回山口県で得られた個体は,同程度の大きさの個体であったものの,生殖腺はとても発達しているとは思えない状態でした.これらのことから,日本海側での群れ行動は産卵とは無関係の現象であると考えられます.
ホシフグ同様に,日本海沿岸に大量漂着する魚類でハリセンボンが知られています.林(2019)では,2019年2月に福井県に大量漂着したハリセンボンについて報告しており,体長15 cmハリセンボンの生息最適水温下限が12–13℃であると考えられ,福井県の1月から2月上旬には,海表面水温の低下により衰弱した個体が風の影響を受けて漂着するとしています.ホシフグの生息最適水温の下限は不明ですが,山口県でホシフグが大量に定置網に入ったときの水温は15℃前後で,この辺りがホシフグの生息最適水温下限の可能性もあります.
ホシフグの産卵に関する情報は福井・本村(2017)しか知られていませんが,体長35 cmまで成長するにしては小さい体サイズで産卵しています.実は,海響館の水槽で自然産卵はしませんでしたが,2019年に人工授精によってホシフグの受精卵を得られたことがあります.その時の卵径は平均0.77 mm(0.76–0.8 mm)で,卵発生も確認できたのですが,残念ながら受精率が低く,孵化仔魚を確認することはできませんでした.その時のホシフグは海響館の展示水槽で成長しており,人工授精に用いたメス個体の体長は380 mm,体重は3.1 kgで,福井・本村(2017)の2倍程度の体長がありました.卵数を計測するために1粒の重量を割り出し,人工授精に用いた卵数を計測すると,一度に卵巣内に約270万粒ある結果となりました.
水槽内の行動や生態が必ずしも野生下の行動と同じかどうかは,慎重に検証しないといけませんが,ホシフグの生息水深は100–400 mとされており(松浦,2017),野生下での観察は困難です.そのような場合,水族館での知見はその生物の生態を解明するのに非常に役立ちます.海響館で大型のホシフグが水槽内で成熟したことを考えると,ホシフグが鹿児島県トカラ列島以外の場所や150 mm以上の体サイズでも産卵している可能性があると考えられます.
【引用文献】
福井美乃・本村浩之.2017.トカラ列島臥蛇島沖で観察されたホシフグの繁殖行動.Nature of Kagoshima, 43: 243–247.
松浦啓一 (編).2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,秦野.Xiv+127pp.
林 重雄.2019.福井県の海岸にハリセンボンの大量漂着.漂着物学会誌,17: 13–14.