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No, 012:タスジフグ

「No. 012:タスジフグArothron multilineatus Matsuura, 2016」

 タスジフグは2016年に新種記載された種で(Matsuura, 2016)、水深10から25 mの砂地に生息しており,これまでに沖縄県、鹿児島県、宮崎県、モザンビーク、紅海、フィリピンなど、インド・西太平洋の熱帯地方に広く分布するとされています。最も似ているのはナガレモヨウフグですが、ナガレモヨウフグとは体の地の色が緑褐色(ナガレモヨウフグは白)、体にある線は白(ナガレモヨウフグは黒)であることで区別できるとされています(Matsuura, 2016;松浦,2017)。

 タスジフグは見ることが稀な種ですが、私は一度だけ、奄美大島で行ったアマミホシゾラフグ調査の際に本種を水中で確認したことがあります。見つけたときには海底でじっとしていました。私が近づくと泳ぎ出しましたが、その際に排便も確認できました。よく見ると出てきたのはほとんどウニの棘。同じくモヨウフグ属のモヨウフグがウニを食べる様子を映像で見たことがありますが、本種も同様にウニを摂餌しているようです。現地の方に聞くと、アマミホシゾラフグの産卵床の中央で落ち着いていることもあるようで、アマミホシゾラフグにしたら大迷惑な個体だったかもしれません。

 魚の世界に限らず、生き物の分類学者は研究者によって、種として認めるかどうか意見が異なることがしばしばあります。世界に何種のフグの仲間がいるか。これは研究者によって意見が分かれます。実は本種についても研究者によって意見が分かれることがあり、Matsuura(2016)で新種記載された後、Miyazawa(2020)では、迷路模様を持つタスジフグ、ナガレモヨウフグが、白い水玉の種と黒い水玉の種の交雑で生まれており、種ではなかったとし、ワモンフグとモヨウフグの交雑個体であるとされました。しかし、Matsuura & Motomura(2022)では本種は有効とされています。モヨウフグ属の交雑については、調べた限りではタスジフグ、ナガレモヨウフグの例しか見つかりませんでしたが、トラフグやクサフグなどのトラフグ属では数多くの交雑個体の報告があり、モヨウフグ属が交雑をしていたとしても不思議ではありません。

 海響館は世界中のフグ目魚類を展示しています。そのなかでワモンフグとして海響館に搬入した個体がいます。搬入した時には2 cm程度の小型で、なかなか種同定がしにくかったのですが、それでも当時はワモンフグの特徴と思われる体色であったことから、ワモンフグとして育成していました。それから1年程度経過しましたが、なかなかワモンフグっぽいと思える体色になりません。改めて種同定を試みたところ、Matsuura(2016)および松浦(2017)に従えば、線が白色である特徴からタスジフグに同定しました。上記のこともあり、未だにタスジフグなのか、交雑個体なのか判断に迷うところでもありますが、現在この個体はタスジフグとして海響館で展示しています。おそらくタスジフグとして展示している水族館は世界でも海響館だけでしょう。成長してワモンフグに似てくるのか、そのままタスジフグの特徴を持ったままなのか、今後が楽しみです。

引用文献:
Matsuura, K. 2016. A new pufferfish, Arothron multilineatus (Actinopterygii: Tetraodontiformes: Tetraodontidae), from the Indo-West Pacific. Ichthyological Research, 63: 480–486. DOI 10.1007/s10228-016-0517-8.
松浦啓一. 2017. 日本産フグ類図鑑.東海大学出版部, 秦野. xiv + 127 pp.
Matsuura, K. & H. Motomura. 2022. Identification guide to pufferfishes (Tetraodontidae,
Tetraodontiformes) of the South China Sea. The Kagoshima University Museum, Kagoshima. 40 pp., 70 figs.
Miyazawa, S. 2020. Pattern blending enriches the diversity of animal colorations. Science advances, 6. DOI: 10.1126/sciadv.abb9107.

魚類展示課 園山貴之

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