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マンボウ模型の制作秘話
令和6年度特別企画展「真・マンボウ展~マンボウにカンドウ~」はもうご覧になりましたか?
とても貴重な標本から学べる遊具、最新の研究など、どれにしても今回の企画展の目玉になりえるものだと自負していますが、今回はあまり詳細を語らずに置かれている巨大マンボウ模型についてお話しをしようと思います。

マンボウを題材にしているこの企画展で、よりマンボウに対する理解を深めてもらうには、生きたマンボウの展示ができることがより良いと思います。が、それほど広くない企画展ブースにおいてそんなことは実際不可能。常設展示のマンボウ水槽とも離れているため、企画展を見終わってからマンボウ水槽に行ってもらうのも難しい。ならばなるべく大きな模型を置くことで、少しでも変わりを担えたら、と考えたのが始まりでした。
まずは理想の大きさの選定から。最も大きなマンボウMola molaは全長が3.3mとされています。その大きさが作れたらベストですが、実際はブースの天井高や途中の扉の大きさなどがあります。色々吟味した結果全長2.5m、高さ2.9mならぎりぎり搬入できると判明し、その大きさで造ってもらう想定としました。
次は業者探し。生き物の立体造形を行っている業者に情報を聞いてみます。どのくらいの納期か、どのくらいの金額かなど。ここで最も大きな壁が私達の前に立ちはだかりました。そう。お金です。企画展には他の展示も必要なため、模型にかけられるお金には限りがあるのです。
考えられる選択肢は、サイズダウン、クオリティダウン、そのどちらもの3択です。できることならどれも下げたくない。けれどそうも言っていられない。展示ブースでのインパクトを考えるとサイズダウンはしたくないため、サイズは保ちつつできる範囲のクオリティを保てるようなギリギリのラインを攻めることになり、再度業者に声をかけてみました。するとある1社が、ここならやってくれるかもと京都のモニュメント制作業者(以下 業者さん)を紹介してくれました。
この業者さんが凄かった!
連絡を取り始めた頃には大阪の海遊館に実際に展示されている生きたマンボウを見に行き、その数週間後には今回の企画展でもかなり協力いただいた鳥取県境港市にある海とくらしの史料館に日本一大きなマンボウの剥製「チョボリン」を見に行くことで、立体造形に必要な情報を自らの足で集めにいかれました。
そして第一報として送られてきた画像がこちら。

「すごい。」
思わず事務所にいるスタッフ全員に見せて回っていました。何より驚いたのは、マンボウの骨格まで参考資料(写真右下)として使用していることでした。プロは外側だけではなく、中身から理解して作るのかと。
細かく気になるところはありましたが、私達の方でお願いできるクオリティとしてはこれを大きくしてもらうのが限界かと思いました。しかし、業者さんからはクオリティを上げるためにどんどん指摘をしてほしいという嬉しいお言葉が!そこで私達はマンボウの研究者である澤井悦郎さんにも依頼をして、より良いものの作成へ向けて動き始めました。
(途中の過程は澤井さんのブログでも紹介しています。https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2024/08/67786/)
そして完成したマンボウがこちら。

匠集団の業者さん、マンボウ研究者の澤井さん、海響館の三者で作り上げた傑作です。
そんなマンボウの言われなきゃ分からない様なこだわりポイントを紹介していきましょう。
① 背ビレ・尻ビレ
大型になればなるほどこのヒレは幅が広く扇状になっていきます。飼育下ではなかなか見られないフォルムです。
② 鰭条数
魚のヒレをみると細かい筋がたくさんあるのがわかると思います。これが鰭条です。そしてこの鰭条の数は生き物を分類するための情報として使用します。マンボウの場合は15~18本。それがしっかりと再現されています。

③ 体側のシワ
こちらも大型個体の特徴です。実際に凹凸があるので、見て触って見てください。

④ 骨板
額と顎の部分に骨板と呼ばれるものがあります。これが大型のマンボウになると顕著になります。
⑤ 鼻の穴
目の前方に2つの小さな穴があります。これが鼻です。
⑥ 歯
マンボウにも歯はちゃんとあります。が、正面から見られることはあまり想定していなかったので気にしていなかったのですが、しっかりとリアルなものをつけてくれました。

⑦ 質感
マンボウは触るとかなり全体的にザラザラとしています。実際はヤスリのような質感ですが、流石にそこまでは今回は再現できませんでしたが、塗装でなんとなくのザラザラ感を再現してくれました。そして、舵ビレとの間の帯状の部分、ここはつるつるとしているのですが、なんとそれも再現されています。ぜひマンボウを左から右へ撫でてみてください。
⑧ 肛門・生殖孔
こちらは業者さんのこだわりポイント!現地視察の際にどのあたりにあるのか分からないと言われ私も澤井さんも驚きました。まさかそこまで作り込むとは!わざわざ覗き込まないと見えないのに!

どうですが?詰まっているでしょう?
企画展終了まで残りわずかですが、これを期にぜひもう一度巨大マンボウ模型に会いにきてみてくださいね。
魚類展示課 飯島卓也