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No,006:サンサイフグ

No,006:サンサイフグTakifugu flavidus (Li, Wang and Wang)

 

 

 2019年に海響館スタッフが萩博物館の収蔵庫を調査したところ、これまで日本沿岸で採集された記録の無かったサンサイフグが見つかりました(園山,2019)。

 サンサイフグは主に渤海、黄海、東シナ海に分布しているフグ目フグ科トラフグ属魚類です(山田ほか,1986,2007;山田・柳下,2013)。現在のように漁業水域が決められる以前は、本種の分布している海域で漁をしていた漁船もあったようで、日本の市場に水揚げされることがありました。そのためか、海外産にも関わらず、山口県衛生環境部が1982年に出した「ふぐ処理師教本 初版」や、1983年に出された、販売・提供等が可能なフグの種類や部位を定めた厚生労働省の通知「フグの衛生確保について(局長通知)」に掲載されています。また、食に関する文献以外でも、Abe(1939)などで日本及び中国近海産のフグ類の分類学的研究の中で掲載され、それ以降、「日本産」とされた図鑑にも日本沿岸で漁獲された正式な記録がないにも関わらず、たびたび掲載されていました(松浦,1984,2017;山田・柳下,2013)。

 日本に分布していない種については、ほとんどが和名を与えられていません。しかし、サンサイフグは先述したような理由で塩見ほか(1980)により和名がつけられました。それによると、当時の日本ふぐ研究会附属博物館の北浜喜一が、中国で有名な唐三彩の色調をしていることから「サンサイ」フグと命名したとされています。同時に毒性も調べられており、卵巣、肝臓、胆嚢、脾臓は猛毒、皮、腸は強毒、筋肉は無毒、あるいは弱毒とされています。

 そんなサンサイフグですが、2019年についに日本沿岸で採れた個体が見つかったのです。ただし見つけたのは生きた生体ではなく、保存液に漬けられた状態の液浸標本でした。サンサイフグは、胸ビレの後方の大きな黒斑がトラフグのように円形ではなく、不定形であることが大きな特徴です。そのため、標本を保存液から取り出した時に、一見してサンサイフグだとわかりましたが、その時には『海外産の標本が混じっているのかな』程度に考えていました。しかし、標本には1995年6月5日に山口県萩市沖で漁獲された記録があり、これまで見つかっていなかった日本沿岸で採集された標本だとわかりました。

 本当にサンサイフグで間違いないのか、黒斑以外の場所も詳細に確認したところ、トラフグ等にもある体表の小棘の分布が背側と腹側でわかれていること、臀ビレの基部は白く、半分から先は暗色であること、本種は成長に合わせて体色の変化があり、標本の標準体長は269 mmで、褐色に淡い斑点が入る体色であることなどが、これまで報告されたサンサイフグと同様でした。

 海で見かけたよくわからない魚が日本で採れたことのない種であることは意外にもよくあります。もしかすると初めて採れた生きたサンサイフグかもしれませんよ。

 

引用文献:
Abe, T. 1939. Notes on Sphoeroides xanthopterus (Temminck et Schlegel) (Tetraodontidae, Teleostei). Zool. Mag., Tokyo, 51: 334−337.
松浦啓一.1984.フグ科.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),pp. 348–351,pls. 329–332.日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
松浦啓一.2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,秦野.xiv + 127 pp.
塩見一雄・山中英明・築地武昭・河端俊治・安部宗明・北浜喜一.1980.中国産サンサイフグ(新称)及びクロサバフグ(新称)の毒性について.UO,31: 21–27.
園山貴之・松浦啓一.2019.山口県萩市沖から採集された日本初記録のフグ科魚類Takifuguflavidusサンサイフグ.魚類学雑誌,doi: 10.11369/jji.19-029.
山田梅芳・田川 勝・岸田周三・本城康至.1986.東シナ海・黄海のさかな.水産庁西海区水産研究所,長崎.xxvi + 502 pp.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.lxxiii + 1262 pp., 54 pls.
山田梅芳・柳下直己.2013.フグ科.中坊徹次(編),pp. 1728–1742, 2239–2241.日本産魚類検索―全種の同定 第3版.東海大学出版部,秦野.

 

魚類展示課 園山貴之

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