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No,009:アベニーパファー

「No,009:アベニーパファー Carinotetraodon travancoricus (Hora & Nair 1941)」

 

 

 フグ科魚類は世界で約200種が知られ(Fricke et al., 2020)、その中で最小と言われているのが今回取り上げるアベニーパファーです。

 

 学名の由来にもなっていますが、現在はインドと併合したトラヴァンコール王国(Toravancore)のパンバ川(Pamba River)で採集されました。日本には分布していませんが、このアベニーパファーという種名は日本だけが使用しているようです。この種名については、アクアライフ編集部(2008)に解説が載っており、スリランカからジャングルパファーのインボイスで入荷したが、取扱業者のスタッフの方でフグ好きなアベさんがおられ、さらにフグの分類の権威の先生にも阿部さんがおられるということから、アベさんという名前にはフグ好きが多いなという理由でつけられたとのことです。なかなか変わった由来の和名ですね。

英名ではMalabar pufferfishやDwarf pufferfishなどと呼ばれています。Dwarf:小人と呼ばれるように、オスで全長18.30 mm、メスは18.03 mm頃から成熟するようで(Anupama et al., 2019)、成長しても全長3 cmは超えません。

 

 Carinotetoraodon属のフグは成熟したオスとメスで体色が異なることが知られており、アベニーパファーも同様です。成熟したオスは目の後ろにしわ状の模様と、腹面の正中線上と、胸鰭から尾ビレ基部にかけて暗色の線が一本ずつあります。対してメスはそのような模様はなく、成熟したメスはオスよりもふっくらとした体型をしています(Anupama et al.,2019)。

 

 アベニーパファーは小型種のため、一般家庭の水槽内でも産卵した記録があります。Doi et al.(2015)の海響館内で産卵した記録では、卵径1.43 mmで5日後にふ化し、ふ化仔魚は全長3.15 mmです。トラフグのふ化仔魚は全長2.77 mmであることが知られ(韓・吉松,1997)、世界最小のアベニーパファーはふ化した時点ではトラフグよりも大きいことがわかります。ふ化仔魚は成魚とは異なり、赤色の色素が多くあり、赤味がかったように見えます。ふ化20日後には6.26 mm、62日後には10.18 mm、112日後には14.75 mm、180日後には16.66 mmに成長します。水槽内と野生下では水温など様々な条件が異なりますが、産卵期が5–8月と考えられており(Anupama et al., 2019)、成熟サイズから見れば一年で成熟し繁殖に参加すると考えられます。

 

 よく似ている種ではCarinotetraodon imitatorが知られていますが、Britz & Kottelat (1999)によれば、卵径が約1.6 mm、ふ化仔魚も3.5 mmでアベニーパファーよりもわずかに大きいようです。ふ化仔魚の体色は両種ともに、腹部と肛門より後ろの尾柄部に赤色の色素があるのが共通しているようですが、画像を見る限り若干の違いがありそうです。

アベニーパファーの生息しているパンバ川は水温が23–28.5℃、pHは6.08–8.22で6.5–7.5が正常値と考えられるようです。飼育されている方は繁殖を狙ってみては。。。

 

 

引用文献:
Anupama, K. M., H. S. Hari Sankar, M. Rithin Raj & M. Marikrishnan. 2019. Reproductive biology pf Malaber pufferfish Carinotetraodon travandoricus (Tetraodontidae). Journal of Ichthyology, 59: 545–554.
アクアライフ編集部.2008.フグにまつわるエトセトラ その① アベニーパファーの名の由来.山口正吾(編),p. 53.AQUALIFE No. 351 かわいいフグとの暮らし方,株式会社エムピージェー,神奈川.
Britz, R. & Kottelat, M. 1999. Carinotetraodon imitator, a new freshwater pufferfish from India (Teleostei; Tetraodontidormes). Journal of South Asian Natural History, 4(1): 39–47.
Doi et al., 2015. Spawning of eight Southeast Asian brackish and freshwater puffers of the genera Tetraodon and Carinotetraodon in captivity. Japanese Society of Fisheries Science, 81: 291–299. doi: 10.1007/s12562-014-0842-7.
Fricke, R., Eschmeyer, W. & Fong, J. D. 2020. Eschmeyer’s Catalog of Fishes. http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp (参照2020年9月5日)
Hora, S. L. & K. K. Nair. 1941. Notes on fishes in the Indian Museum. XLI. New records of freshwater fish from Travancore. Records of the Indian Museum (Calcutta), 43(3): 387–393.
韓 慶男・吉松隆夫.1997.飼育条件下におけるトラフグの初期発育,九州大學農學部學藝雜誌,51: 157–165.

 

魚類展示課 園山貴之

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