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第199回「下関近海で発見されるクジラ」
私たちトレーナーは、普段水族館内でイルカやアシカの健康管理、トレーニング、そしてショーのステージに立つことが主な仕事ですが、今回は別の一面を紹介したいと思います。それは、下関を中心に山口県や福岡県北九州市周辺の海で発見されるクジラ(イルカを含む)などのストランディング・混獲の対応です。
ストランディングとは、クジラやアシカ・アザラシなどの海棲哺乳類が生死に関わらず海や河川などで座礁・迷入・漂流・漂着の状態で発見されることです。海響館では、ストランディング・混獲の情報提供を呼び掛けるポスターやチラシを配布したり、漁業者と連絡を取ったりし、積極的に情報収集に努めています。そして、ストランディング・混獲の連絡を受けた際には可能な限り現地に向かい、個体が生存していれば救護し、死亡していれば状態の確認や計測などの情報収集、試料の採取を行い大学等の研究機関へ提供するなどの調査研究活動を行っています。冒頭の写真はその一例で、今年の9月に下関の海岸で座礁(生存)していたオガワコマッコウというクジラの一種を救護している時の様子です。この時は、一般の方からの通報が私たちの元に届いたため、現地に急行することができました。幸いなことに、この個体は長時間座礁していたにも関わらずジタバタと動くほどの体力が残っていたため、自力で泳げると判断し体長測定や採血を行った後、専用の担架に乗せて浅瀬へ移動、その後はスタッフ5人で抱きかかえて沖まで連れていき、海へ返しました。放した後はすぐに泳ぎ出し、呼吸も確認できました。私自身オガワコマッコウを見たのは初めてで下関で出会えたことにとても驚きました。
海響館では、山口県や北九州沿岸におけるクジラの仲間のストランディング・混獲情報をまとめており、1998年5月から2018年11月までの20年間で394件の情報が集まりました。取り扱ったクジラの種類はスナメリ、バンドウイルカ、カマイルカ、スジイルカ、ハセイルカ、シワハイルカ、ミンククジラ、オウギハクジラ、コブハクジラ、マッコウクジラ、コマッコウ、オガワコマッコウ、ハナゴンドウ、ユメゴンドウと、なんと14種にもなります。これらのクジラの仲間のほとんどは下関の近海に住んでいるわけではなく、回遊の途中で迷い込んでしまったり、何かしらの原因で海岸に座礁したりしたものと考えられます。
皆さんが色々な種類のクジラを下関近海で見つけることは難しいと思いますが、スナメリは下関の沿岸で生活しており場所によっては海岸からでも見ることが出来る、私たちにとって身近なクジラの仲間です。今までに海響館に寄せられたクジラの仲間のストランディングの情報394件のうち、なんと351件(約90%)がスナメリの情報なのです。しかし、これだけ多くの情報が寄せられるスナメリでも、まだ一般に広く知られている動物ではないのが現状のようで、海響館に来られるお客様に話を聞いてみてもクジラ・イルカは知っているけどスナメリは知らないということを聞くことがあります。
私たちはショーをする以外にもこのような活動を通してみなさんに海の生き物について知っていただけるよう取り組んでいます。
海獣展示課
鍬崎 賢三