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どんな形?どんな暮らし?
イルカを見て「サメみたい!」と思ったことがある方は多いのではないのでしょうか。それは、イルカもサメも胸ビレや背ビレがあり、パッと見た感じが似ているからだと思います(イルカには背ビレがない種もいますが)。イルカは哺乳類、サメは魚類と分類では全く異なる動物なのですが、姿や形が似ている秘密は「どんな環境で暮らしをしているか」にあります。
魚類は無脊椎動物からサメを含むさまざまな種に進化しました。一方哺乳類は、魚類が徐々に陸上へと生活の場を移すことで、両生類、爬虫類を経て進化をしてきました。そして、イルカを含む鯨類は陸上で生活していた哺乳類が再び海に生活の場を移し進化して誕生したといわれています。水中での暮らしに適応するため、長い年月をかけ前足は胸ビレになり、後ろ足は消失し、しっぽは尾ビレへと形を変えていきました。このように、系統的には離れた関係(今回の話は魚類と哺乳類)であっても同じ環境に適応することで外見や機能が結果的に似たものに進化することを「収斂進化(しゅうれんしんか)」と呼びます。
前置きが長くなりましたが、この収斂進化の視点で、今私が興味深いと思っているイルカとアシカの「歯の形」について紹介します。海響館で飼育しているバンドウイルカとカリフォルニアアシカの歯を比較しながら進めたいと思います。
では、まずは人の歯についてです。人の歯は生えている場所によって形が違い、切歯・犬歯・小臼歯・大臼歯の4種類の歯があります。このように歯がそれぞれ違う形であることを「異形歯性」といいます。人が食べものを咀嚼するとき、違う形の歯がそれぞれ食べものを噛み切ったり、すり潰したりといった機能を担っています。歯の構成が複雑な異形歯性は哺乳類の特徴の1つでもあります。
続いて、こちらの写真をご覧ください!


これはバンドウイルカの歯の写真です。人の歯の形とは大きく異なり、歯の形が全て同じで先端がとがった円錐状をしています。これを「同形歯性」と呼びます。歯の形状は、その動物の食性(エサの捕らえ方や飲み込み方など)に大きく関係しています。バンドウイルカは水中でエサとなる魚などを口で捕まえ、咀嚼せず丸飲みして食べています。そのため、人が咀嚼する時に使う切歯や臼歯が不要で、生き物を逃がすことなくしっかりと捉えられるように鋭い歯がたくさん並んでいるのです。かつて陸上で生活していた頃はおそらく異形歯性だったと思われますが、水中生活への適応として捕食方法や飲み込み方などの食性に合わせて進化し、同形歯性となったのです。
では、アシカはどうでしょうか。アシカは陸上動物から水中へと生活の場を広げた哺乳類ですが、完全な水中生活ではなく、陸上と水中の両方の生活に適応した進化を遂げています。前足と後ろ足がヒレ状に進化して水中では素早く泳ぎ、陸上では前足と後ろ足で体を支えて移動します。そして、食性はイルカとよく似ており、水中で魚などを口で捕え、丸飲みにして食べています。「同じ環境に適応することで外見や機能が似てくる収斂進化」と「歯の形は食性に大きく関係する」ということを踏まえると、「アシカの歯はイルカとよく似ている」のか?!
では、カリフォルニアアシカの歯を見てみましょう!

バンドウイルカの同形歯性とは大きく異なり、場所によって形が違います!
見た目からカリフォルニアアシカの歯は、陸上で生活する哺乳類の歯と同じように異形歯性というのがわかるのですが、しっかりと観察してみると… 私たち人の歯とは違いがあります。

人の歯は、大臼歯と小臼歯と呼ばれる物をすりつぶす役割を持つ歯が2種類あります。それに比べて、カリフォルニアアシカは大臼歯と小臼歯はほとんど見分けがなく、まとめて頬歯(きょうし)と呼ばれます。先に書いたとおり、エサは丸飲みにするので、噛んですりつぶすという機能は不要なのです。
このように、大臼歯と小臼歯の差が小さくなっていることは、バンドウイルカのような同形歯性に移行していく過程なのではないかともいわれています。(断言はできませんが、、、)
アシカが水中へ生活の場所を移した時期を調べてみると、海棲哺乳類(海などを生活の場としている哺乳類)の中で最も遅く、鯨類が約6500万年前頃といわれているのに対し、アシカなどの鰭脚類(ききゃくるい)は約3800万年前頃といわれています。なんと、2000万年以上の差があります!これほどの年月の差があれば、まだ進化が途中であってもおかしくないですね!
自分が見届けることはできませんが、この先アシカの収斂進化が進みイルカと同じような歯になるのか、または全く違う形への進化をするのか、想像するとわくわくします!
海獣展示課
金山 彩女