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コマッコウのライブストランディング

 海響館では山口県や福岡県北九州市周辺の沿岸におけるクジラの仲間のストランディングや混獲に対応しており、生存個体のレスキューを行うこともあります。ストランディングとは、クジラやアシカ・アザラシなどの海棲哺乳類が生死に関わらず海や河川などで座礁・迷入・漂流・漂着の状態で発見されることです。今回、海響館がストランディング情報を集め始めてから25年以上の歴史の中でもわずか3例しかなく、私にとっては初めて遭遇する「コマッコウ」というクジラのストランディングがありましたので紹介します。

 2024年5月19日、海響館に「背ビレがあるイルカ?クジラ?が海岸の近くに弱って浮いている」という連絡が入りました。発見者の方に写真と動画を送っていただき確認したところ「コマッコウ」もしくは「オガワコマッコウ」であることがわかり、状態としては衰弱している様子が伺えました。これは水族館が出向くしかないと判断し現地に向かうことを決定しましたが、対応には複数人が必要となるため、魚類とペンギン担当のスタッフにも協力を要請し、総勢7名で現地に向かうことになりました。

 現地に到着し、個体を確認したところ体長240cmほどのコマッコウであることがわかりました。

 元気なさそうに浮いていましたが、相手は見た目の想像からも200kgはあろうかという大きさなので、少し体をくねらせただけでも人間は跳ね飛ばされてしまいます。万が一の危険を避けるため、まずは海響館から持ってきたイルカ専用の担架(胸ビレの位置に穴が開いているもの)に乗せ、安全を確保した状態で傷や呼吸状態を確認し、健康状態を含めた個体情報を得るための採血も行いました。その後、泳げるかどうかの確認のため担架から解放してみると、勢いよく泳ぎ再度砂浜に打ちあがってしまいました。再び担架に収容しその場で意見交換をした結果、泳ぎ方を見ると沖まで連れて行けば上手く泳いでいくことができるかもしれないということで、担架に乗せたままのコマッコウを6人で担いで、打ちあがった海岸のある湾の外(約400m)まで連れて行くことにしました(もちろん足はつかないので泳いで)。

 この個体(コマッコウ)にとって、人に囲まれることが初めてだったので緊張していたのか、暴れることはなくスムーズに目的のポイントまで運ぶことができました。無事に泳いでくれるだろうかという心配もありつつ担架から解放したところ、すぐに勢いよく泳いでいき、姿は見えなくなりました。そして、無事に海に帰ってくれたことを祈りながらこの日は撤収。

 残念ながらこの個体は、翌日別の場所にまた座礁しその後死亡してしまいましたが、海響館に運び入れ、様々な研究に活かしてもらえるよう、解剖を行い皮膚や臓器などのサンプルを採取しました。

 今後も海響館は、皆様に少しでも生き物について知っていただき、また、彼らの生態解明の一助となるようにこのような活動を続けていきます。

海獣展示課

原田 一孝

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