menu

loading...

海藻水槽復活してきました!!

 私の中でリセットしたくない水槽が一つありました。それは海藻の世界水槽です。長年の飼育で水槽内の擬岩(本物の岩に見える壁)には多くの海藻や生物が固着し、壁自体が生き物といえる状態だったからです。しかし、、、2021年3月水槽の漏水トラブルにより10日ほど落水することになり事実上リセットすることになってしまいました、、、

 リセット前の水槽の壁はワカメが生え、紅藻のムカデノリやサンゴモ等などが壁を覆い、少し赤っぽい岩肌でしたが、落水から10日後、水槽内に海水を張ると、赤かった壁は真っ白な岩肌になり壁の生き物はすべて死んでいました。まさに0からのスタートです。

 幸い春だったので、海には多くの海藻があり、近隣の海から海藻を採集することで展示の再開はできました。しかし、展示再開できたから復活!というわけではなく、生きた壁になってこそ復活です。そのため、1年後、2年後を見据えて水槽の中に生えてほしい海藻をチョイスし水槽内に入れていきます。春に成熟した海藻を入れておけば、そこから(海藻の種類にもよりますが)種ともいえる遊走子や卵、精子が水槽内に放出されるので、海藻の居心地の良い環境をうまく整えておけば、次の春には水槽内で繁茂してくれるというわけです。

 ただし、そう簡単にはいきませんでした。成長し残ってほしいと思っている海藻の幼体(赤ちゃんのようなもの)が、岩の上にびっしりと着き、その成長を楽しみに経過を観察していると、、、いつの間にか何者かに食べられてしまいます。海藻を食べそうな生き物として目につくものは、ムラサキウニ、クロアワビ、サザエなどが水槽内にいますが、数も少なくそこまで悪いことをしているように思えません。別に犯人がいるように思えました。

 ある夜、水槽を観察していると、海藻の幼体が生えた岩の上に小さな巻貝の仲間(チグサガイの仲間)がたくさん姿を現していました。おそらく、このチグサガイが海藻を食べる犯人だろうと推測し対策をすることにしました。昼間は、岩の窪みなど物陰にいるため、直接見つけて除去しようとしても限界がありました。そこで、小さな巻貝を食べてくれそうな生き物として、水槽内にイトマキヒトデを5個体入れることにしました。そうすると、海藻の成長スピードが貝に食べられるより早くなったようで、何とか成長できるようになり危機を乗り越えることができました。

 リセット前だと、たくさんの海藻が岩を覆い、小さな巻貝による被食を意識することはなかったのですが、一度リセットした水槽は海の砂漠ともいえる磯焼け状態で小さな海藻の幼体は捕食者に狙われやすい状態だったのです。意外と難しい、、、と痛感しました。最近、社会問題として磯焼けのニュースを見ますが、一度崩れたバランスを整えるのは難しいものだなと、水族館の水槽という小さな生態系の中で経験することができました。

 こんな試行錯誤のなかでうれしいこともありました。ワカメやアカモクのように1年で成熟する種の飼育はある程度のノウハウがあり育成できるのですが、成長に時間がかかる多年生のホンダワラ類はこれまで、なかなかうまく成長させることができていませんでした。その中で、2021年秋に確認した多年生のホンダワラの一つヤツマタモクが、2023年4月現在、観察しやすい大きさまで成長してきました。現在、水槽内をワカメやアカモクが存在感を出し賑やかな様子で復活してきた海藻の世界水槽を見てもらうとともに、担当としては水槽の隅にあるヤツマタモクも少し見てもらいたいなと密かに思っています。

魚類展示課 久志本鉄平

PAGETOP