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貝の上に育つ海藻「ホソエガサ」

 下関市内にいくつかお気に入りの生き物観察ポイントがあります。その一つは島と島に挟まれ、おだやかだけど程よく流れのあるポイントです。流れがあるためか、他のポイントではあまり見ることがないウミエラの仲間やヒラタブンブクなど個性的な生き物の姿をよく見ることができます。

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 そういった底生生物が面白いポイントなので、じっくり海底を観察しながら潜っていました。そんなとき、小さくてひょろっとした軸に小さなコップのような形の緑の傘を付けた海藻が目に付きました。海藻を取り上げてみるとなんと貝殻から生えています。

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 なんて面白い海藻だろうと思い、この海藻について調べてみることにしました。どうやらカサノリの仲間で「ホソエガサ」ということが分かりました。文献にも貝殻などの上に生えるとあり、まさに同じ海藻です。そして、文献を読み進めると、かつて伊勢湾や瀬戸内海や九州で広く分布していたものの現在では能登半島以外ではほとんど見られなくなっており、環境省レッドデータブックでは絶滅の一つ手前の絶滅危惧Ⅰ類(野生での絶滅の危険性が高い)に分類されていることが分かりました。今後、絶滅させないためにも、この海藻の生態を知ることは重要です。下関市内で生えている場所は他にはないのか?どういった環境に生えるのか?見つけた場所と似たような環境の場所をピックアップし調べてみました。そうすると、なんと市内5カ所でホソエガサを見つけることができました。調べれば意外とあるものなのです。そして、人知れず下関の海に生え、人知れず絶滅するかもしれない、このホソエガサを多くの人に知っていただき、見ていただきたいと思い、水族館に持ち帰りうまく育てることができるか試してみることにしました。水槽の条件は自然下で繁茂する季節である春~初夏の条件が良いだろうと想定しました。初めに外の光が当たる場所で育てるとうまく育ったのですが、室内の弱い光で育てるとなかなかうまく育ちません。また、外の光が入る場所でも一日の日の長さが短くなってくるとなかなかうまくは育てることができませんでした。

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 皆さんに見ていただくためには、室内で安定して成長させることが必須なので、外の光で育てるのではなく強い光の出るライトを使い育てることにしました。そうすると9月に採取したホソエガサの生えた貝殻からは11月頃まで次々にホソエガサが芽吹き成長、成熟し、ある程度水槽内で育てるめどがつきました。次の課題は次世代のホソエガサが芽吹いてくるか?ということです。飼育開始し時から水槽に入れていた新しい貝やサンゴ礫からホソエガサが芽吹けば次世代のホソエガサが生えたことになるのですが、飼育開始から2ヶ月経過した11月になってもホソエガサの姿は見えません。何か条件が足りないのか、、、と考え始めた12月中旬、ついに水槽内に入れた貝やサンゴ礫からまだ小さいですがホソエガサの姿を確認することができました。

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 試行錯誤の結果、ようやく海響館では初めてホソエガサを育てることができた瞬間です。こういった技術は今後、野生下での「緊急的な」保護が必要になった時に役立つものだと考えています。現在、大きく成長したホソエガサの展示を期間限定で行っています。是非、この機会に貝殻の上に生える貴重な海藻を見に来てください。 今回は山口県の海中の貴重な自然の一端をご紹介しましたが、2016年3月12日からは山口県の川やその周辺に棲む貴重な生き物についての企画展が始まります。是非そちらも見に来てください。

 

海獣展示課 久志本鉄平

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