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Vol.232 白と黒

 

 「バラは赤く(Roses are red)、スミレは青い(Violets are blue)」、イギリスのマザーグースの童謡は更に続く、「砂糖は甘く(Sugar is sweet)、そしてあなたも同じ(And so are you)」と。さてこの写真も、マザーグースに倣うと、エイは白く(Rays are white.)、エイは黒く(Rays are black.)そしてエイは両方とも赤い(And both rays are red.)と言いたくなるような光景である。

 まるで禅問答のようだが、実は、このエイの標準和名は両方ともアカエイ。「よ~く見て、俺の純白の肌を、昔から色白は七難隠すと言うだろう」と言わんばかりに並んで優劣を競っているようなオスとメス。仲の良いカップルか?それとも文字通り雌雄を決する戦いか?何故かアルビノ状態は、背側のみで腹側は現れていないように見える。

 

 七難隠す色白は、自然界では目立つので逆に襲われる機会が多いといわれている。けれども、このエイはここまで成長しているのだから諺どおりその七難を乗り越えたのに違いない。よくぞここまで、あっぱれ、あっぱれ。

 

 以前「黄金のヒラメ」と称して黄色いヒラメが展示されたことがある。小学生からよく「黄金のヒラメどこにいますか?」と聞かれたものだ。現在は、黄色のイサキが、この白いアカエイと共に関門海峡潮流水槽で展示されている。何れも目立つためか来館者からよく質問を受けるが、黄金のヒラメほどではない。

 

 ところで、魚とは無関係だが、警察のパトロールカーはなぜ白黒のツートーンカラー?ペンギンとは逆で腹側が黒い。お巡りさんに叱られそうだが「腹黒」である。サヨリは内臓が黒いが、何故か「腹黒」と言われるのは聞いたことが無い。腹の中の黒く薄い膜のようなものを取り除くとそれは美しいからかも知れない。

 江戸時代に贅沢禁止令の中、内側に豪華な服を着る、密かなおしゃれが流行ったらしいが、サヨリは外見も貴婦人といわれるほどだから、やはり腹黒は似合わないのだろう。パトロールカーもいわゆる「腹黒」と思っている人は誰もいない。

 

 喉が黒いノドグロ(赤鯥)、さかな君の説明では、深海魚のノドグロは、暗い環境で白い口腔色では目立つので捕食に都合が悪いからなのだそうである。深海にはノドの白い魚はいないのだろうか。人間社会ではノドグロとは逆の展開もある。歌舞伎役者は、真っ白なお化粧だが、昔の歌舞伎小屋は今のように明るくは無かった。そこで目立つようにと白く化粧するようになったらしい。

 

 黒と言えば黒幕、ブラック企業などネガティブな印象が多いが、魚の名前には黒なんとかの名前を結構見かける。クロマグロを初めに、クロダイ、クロソイ、クロホシフエダイ、ミツボシクロスズメダイ、クロアナゴ、クロメバル,クログチ、クロサバフグなどなど。中には、クロモンガラように、名前から黒いと思って探していると、そんなに黒くなく、アカモンガラの方がよほど黒い感じがする魚もいるので紛らわしい。

 

 全身が真黒なソロイモンガラというモンガラカワハギの仲間がいる。ただ背ビレと腹ビレの基部に細い白線があり、洗練されたデザインの魚。ちょうど隣の水槽に、これとそっくりな魚が展示されている。異なるのは尾ビレの先端が白いところだけである。水槽が離れていれば気付かなかったかも知れないが、隣接しているので比較ができ気付きやすい。

 魚名版にないので聞けば、同種の魚で白線は個体差でどちらもソロイモンガラであると説明を受けていたが、実は、インディアントリガーフィッシュという別の魚であった。

 細い白線一筋で種が変わってしまう。もう少しで間違った解説をしてしまうところであった。

 

 それにしても、今は記憶していても、時間がたてば多分、否、確実に、尾ビレの先端が白いのはどちらだったか?と迷うことだろう。

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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