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脱いで、変わって、カニになる
もうすぐ2016年も終わりますね。皆さんにとってどんな年になりましたか?海響館では新しい生き物との出会いもたくさんありました。今年は小さな小さなカニとの出会いがありました。
5~8月になるとお腹に卵を抱えたメスのヘイケガニが漁師さんの網に入ります。毎年、卵から赤ちゃんが生まれるのですが、なかなかヘイケガニの成長を観察できませんでした…。
皆さんはヘイケガニの赤ちゃんがどんな形をしているか見たことがありますか?カニの種類によって少しずつ形が違いますが、生まれた赤ちゃんは皆さんがイメージするカニの形ではなく「ゾエア」とよばる、実にへんてこな形をしています。
どこから見てもカニには見えませんね。ヘイケガニも脱皮を繰り返すことで大きくなり、形を変えていくのです。
ヘイケガニのゾエアは数mmととても小さく、体の真ん中あたりからひょろりと伸びているところを前に後ろにと動かしてちょっとは泳ぐことができるのですが、ほとんどを水の流れに頼って浮きながら移動します。そして、このゾエアの形の時は飼育が難しいのです。昨年は1週間ほどでほとんど死んでしまいました…。
今年は昨年と違う方法で飼育を試してみましたが悲しいことに、飼育を始めてから少しずつゾエアが死んでしまい、ついに1か月後にはほとんどいなくなってしまいました…。昨年よりも長く飼育はできましたが、ゾエアの次の形に変わる脱皮を確認できず、すごくがっかりしてしまいました。せめて、死んで水槽の底に沈んでしまったゾエアを標本として残したいと思い、慎重に水を抜くと、底からは半透明のゾエアとは違う形の生き物が!???カニ!?なんと、知らないうちにゾエアから変態(脱皮をして形を変えること)をしていたのです。甲羅はわずか3~4mmの半透明で水槽上からから光を当てただけでは気づけなかったのです。どうやらこの段階の形になると着底して生活するようになり、ひっそりと水槽の底で生きていたようです。
顕微鏡で観察してみると、背中側の脚の先にはヘイケガニの特徴の、物を背負うための立派なかぎづめがありました。これなら物を背負うことができそうと思い、試しに小さく割ったウニの殻を入れました。はじめてのわっしょいは成功するかな?
しっかりと甲羅よりも大きなウニの殻を背負っています。もう立派なヘイケガニですね!このあとさらに1ヶ月に1回くらいのペースで2回の脱皮を繰り返し、ゆっくりゆっくり大きくなりました。しかし、残念ながら3か月という短い期間でしか飼育はできませんでした。短い期間ではありましたが、今までは小さなヘイケガニを見たことがなかったので、私にとって初めて観察できた小さなヘイケガニの成長は2016年の嬉しかった出来事のひとつです!飼育員をしていて生き物たちの成長を見るのは本当に嬉しいことです。
2017年はどんな生き物たちに出会えるかな~
展示部魚類展示課 井上美紀