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Vol.228 石臼の1481日

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 休館日に気が付かず図書館や美術館などに訪ずれて、何度がっかりしたことだろう。前もって調べてからと毎回反省するのだが、未だに同じことをこりずにやっている。近い場合は、また来ればよいと諦めもつくが、遠くの場合には本当にがっかりする。365日休館がない海響館ではこのようなことは起こらないが、実は、似たようなことを立場は逆だったが体験した。

 今年の8月は、例年にも増して猛暑続きだったが、急に涼しくなった夏休みも終わりに近いある日、3階のトラフグ水槽付近を通りかかると、「そうだったの、知らなかったわぁ~」と女性の話し声。トラフグ水槽の正面は、フグを更に詳しく知りたい人には、便利なコーナーになっていて、画面でフグの仲間を系統図や50音で検索できる。開館当初はよく利用していたが、今も時々参考に見ることがある。

 現在、同じコーナーに子供向けの大きな木製のクイズ盤「合わせてみよう、親子はどれかな?」が展示されている。魚の親と子を見分けるクイズである。魚の中には成長の過程で模様や形が大化けして見分けるのが難しく解説者泣かせがたくさんいる。

 ウズマキ模様がタテジマ模様に変身するなどは朝飯前だ。中でもウナギ、ヒラメ、カレイやマンボウは、親に似ても似つかぬ形をしている。「栴檀は双葉より芳し」の通り、仔魚、稚魚の時代からその頭角を現しているように見える。

クイズは、フグコーナーなのでマンボウ、ハリセンボン、キヘリモンガラ、コモンフグ、コンゴウフグとお馴染みのフグ仲間のスーパースター親子5組が出演している。一般に成魚は知っていても、その仔魚や稚魚を見る機会は多くないのではないだろうか。

 クイズ盤には、稚魚の写真が張られた○、□や△の形が異なる小さな板を、成魚の写真が張られた○や□の穴へ嵌め込んでいく。正解なら穴に嵌って、ストーンと落下する仕掛けになっている。マンボウの下の受け板のペンキが一番よく剥げている。よほど何度も6角形のマンボウ稚魚板が落ちたのだろう。子供たちが喜んで遊んでいる様子が目に浮かぶ。

件の女性はこのクイズ盤を見ての一言だった。「何か新しいことでも見つかりましたか」と尋ねると、マンボウの稚魚の写真を指して「マンボウの赤ちゃんがこんな形だったとは知らなかったわ」とお母さんと男児。このような場面になると、ついいつもの解説ボランティア「習性」が出てくる。

 そして、卵から孵ったばかりの2mmほどの仔魚にはちゃんと尾ビレがあること、もう少し大きくなるとコンペイトウのようにトゲトゲ状態になること等々話していると、マンボウに相当関心がある人らしく話題が弾んだ。

 ところが、マンボウがここの水族館で展示されていることを調べ、楽しみにしてきたと言われるではないか。マンボウの水槽は、順路の先なのでまだご存じなかったらしい。

 これには困った。実は、マンボウはちょうど1か月前に死亡し、今は、毒のある卵巣を糠漬けとされることで有名なゴマフグの群れと入れ替わっている。ちょっと言い出し難かったが、このことを伝えると、名古屋からマンボウを見たくて来た由。今度はこちらが「そうだったのですか」と驚き恐縮した。

 男児(小1)はマンボウが大好だったので 大変残念な様子でお母さんにもたれかかった。勿論、われわれも長寿を期待していただけに、残念な気持ちは大いに共感できる。死亡の直前の様子などに関心を寄せられたので、マンボウは飼育が難しいこと 本館での過去の最長飼育記録は4年2か月で、あと42日で記録を更新するところだったことなどをお話した。

 ところで、マンボウを展示している水族館は、国内にどのくらいあるのだろう。この機会に調べてみると、期間限定も含めて十数館あるようだ。子供達だけでなく大人にも人気がある魚だが意外と少ないような感じがする。ウエブサイトには事前に水族館に問い合わせるように小さな字で注記されているがどれほどの人が気付くかわからない。

 生き物は、前日まで元気だったのに突然展示が出来なくなる場合がある。お目当ての魚がいる場合は、出来れば当日の朝に電話ででも確認してからがよさそうである。

 マンボウはフグの仲間でも特異な点が多く話題が尽きない魚。フグの仲間なのに膨れない、尾ビレが無い、浮き袋が無い、腹ビレが無い、ウロコがない。無いないづくしだが、あるのは人気で看板娘(息子?)だ。

 「ウキブクロ 持たずに浮かぶ 石の臼(マンボウの学名Mola sp.Bの意)」と学名は石臼のためか、さすがに、終末期のマンボウは浮かず(浮けず?)、あの163cm、223kgの巨体を持てあまして水底に石臼のようにどっしりと横たわっていることが多かった。期待が大きい後継のマンボウだが、今回と同サイズに成長するのは東京オリンピックの頃だろうか?

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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