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vol.255 オー、マイ ゴッシュ!

 海響館も21世紀最初にオープンした水族館といわれて以来随分時が過ぎた。その間、ハード面、ソフト面ともに新しいことが取り入れられ、ボランティア活動も初期のころに比べ、幅が広いものになってきている。個人的には来館者が心地よく観覧できるための情報提供を心がけているつもりだが、まだまだと思われる年月だった。

 2001年4月1日の開館初日から、いわゆる汽車窓型水槽のように単独種の展示と異なり、関門海峡潮流水槽のような大型のオセアナリュウム(oceanarium)型水槽には、2~3日見なかったらニューフェイスが泳いでおり、日毎に魚種、数量共に増えていった。この水槽に魚類の搬入が始まったのは、開館を間近かにひかえた1月25日で、マアジやメバルなど16種約1,800匹搬入と当時の新聞は報じていた。更に4月中旬当時のメモには、99種、総数約10,000尾とあるので、オープン後もいろいろな魚の搬入が続いていた模様。

(因みに、令和4年8月現在、84種、総数約33,258尾)

 すでに広島など県外からのボランティアによる団体案内ツアーの申し込みが出始めていた。まだ、経験1か月未満の解説ボランティアは、案内ルートを検討したり、飼育員さんに訊ねたり、図書館へ行ったり情報収集が怠れない。ボランティア室に情報検索のパソコンと図書コーナーが整備されたのはまだ先のことだった。

 それは4月末ゴールデンウイークの直前だった。本館で最大の水量を擁する上記の関門海峡潮流水槽に60~70cmほどのボラのような魚が、水槽の上層を悠然と泳いでいるのが目入った。ボラはそんなに珍しい魚でもないが、ただ大きいのでよく目立った。今でもそうだが、目立つ魚は来館者から質問が出ることが多いので、それなりに準備しておく必要がある。それに、ボラは、明治15年に完成した日本最初の水族館「観魚室」の飼育動物一覧表にも載っている魚、これを知らないという訳にはいかない。

オープン直後で館内を忙しく走り回っている飼育員さんを運よく見かけたので、このボラらしい魚を念のため訊ねてみると、オー、マイ ゴッシュボラではないと。実は、ボラにそっくりな「メナダ」(ボラ科メナダ属)で、産地は地元彦島で海士郷の漁師さんからだという。 灯台元暗し、地元の魚だ。

 巨人、大鵬、卵焼き、神様、仏様、稲尾様(注)、& 飼育員様虫の知らせ、否、魚の知らせか、確かめておいてよかった。昭和元禄のおまじないで感謝。それにしても「メナダ?」。初めて聞く魚名。ボラのように成長とともに、コスリ、トウブシ、メナダと呼び名が変わるところや、卵巣から高級食品で珍味の「からすみ」がつくられるところはボラとよく似ている、といったことを付け焼刃でおぼえたような気がする。知っているつもりでも、実は知らないことが多いということを知っているつもりだったが。開館当初はこんなことの繰り返しだった記憶がよみがえる。

 開館当初だからというのは言い訳で、実は数年前、風邪気味でしばらくボランティア活動の期間が空いた時があった。活動を再開、久し振りに新入り魚介類を予習しておこうと大急ぎで館内を巡回していた。2階の温暖水槽まで来たとき突然出会ったヘビのような個体、これは間違いなく質問がでそうだと目を凝らして観察している間もなく、背後から男性来館者の声。「これは何です?ヘビ?」アクリルガラスのすぐ向こうの砂上に寝そべっている。これ以上の目立つ場所はない。「ウミヘビの仲間ではないかと思うのですが・・・?」と答えたが全く自信がない声。

 展示水槽の上部の魚名板は、すべての魚名が掲載されているわけではないので頼れない。飼育員さん来ないかなあと周りを見回す。神様、仏様、稲尾様、& 飼育員様とおまじないを唱えてみても無駄だった。

オー、マイ ゴッシュ

 後で、「オオイカリナマコ(大錨海鼠)」と知ったが、成長すると3~4mにもなると。こちらが休んでいる間に入館してきた新人「おばけナマコ」だ。英名はSnake Sea Cucumberというらしいが、ヘビのようなナマコということか。従って、ウミヘビの仲間でなく、ナマコの仲間と伝えるべきだった。活動期間がしばらく空いた直後の館内案内では、このような失敗を何度も経験した。

 ボラは関門海峡でも、釣りたくないのによく針にかかる魚である。自信があったのだが今までボラだと思いメナダをリリースしていたかもしれない。当時は、ボランティア定例会はなく各自が思い思いの解説を行っていたので、情報共有のため、メナダの情報は早速「ニューフェイス 話題の水族」として、ボランティア室の掲 示板に貼出しておいた。

 現在は、毎週、館の展示部から水槽の状態、魚類、鯨類等の出入情報が掲示される。又、同じ情報が毎月各ボランティアの自宅にも配布されるので、最近のようなコロナ禍の最中でボランティア活動が制限された期間でも各水槽内の概要が把握でき、活動再開時は 大いに参考になっている。

 4~5年?前、久し振りにメナダを見ることができた。5cm前後の小さなメナダが展示水槽のアマモの繁った間を、小さなボラと混泳していた。よく似ている。今回も館側から教えられるまで、ボラの稚魚だと思っていた。

解説ボランティア:唐櫃 山人

(注):稲尾様;元西部ライオンズの主戦投手

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