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Vol.226 春はスナメリとともに

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  今年の「その日」は、福岡の日本一早い桜の開花ニュースとともに巡って来た。「その日」3月19日は、「スナメリの日」である。今年の「その日」は、朝からどんよりと曇っていて青空は見えない。今回も、予想通り、期待に応えて出現してくれるだろうか。

平成23年、あの東日本大震災があった約1週間後の19日以来、「その日」に5年連続でスナメリが、程度の差はあるが、大フィーバー的に三軒屋海岸に現れており毎年注目してきた。今年は6回目になる。
2年前、本通信Vol.207でも、4回目の出現状況を投稿した。当時は、まだ、あまり確信が持てなかったが、それでも数人の知人には「その日」の話しをしていた。結果的には、針千本呑まずに済んだ。
今回は、多くの人に、「その日」は出現確率99%と、アナウンスの風呂敷を広げてきたので、もしもの場合は丸坊主だ。実は、一末の不安はあった。昨年末から海岸近くに、防波堤工事の仮置き場として500個ほどのテトラポットが海面を埋め、海域の環境が変わったのである。

季節は、まさに「さまざまなこと思い出す桜かな(芭蕉)」である。また前回と同じようなことを思い出した。古いことばかり繰り返すのは、それだけ印象が強かったのか、それとも、年齢のせいか、多分後者だろう。
あの年は、年の初めから大地震のニュースが多い年であった。1月27日に新燃岳の爆発的噴火の当日、三軒屋海岸沖での大フィーバーは、本通信Vol.175「スナメリ野外劇」でその詳細を投稿した。その約1か月後の2月22日のニュージーランドのクライストチャーチ市でM6.1の大地震で多くの日本人留学生が被災した直後の23日~25日は、大フィーバーを含め3日間出現が続いた。

そして東日本大震災があった3月11日の約1週間後の3月19日である。巨大地震とスナメリのフィーバーが大きな出来事記憶として思い出される。次の年も、更にその次の年も「その日」にフィーバーが発生しているのに気付いたのは3年目ごろであっただろうか。それから毎年その日は、「スナメリの日」だとスナメリ愛好者の中で呼んでいる。

奈良の二月堂のお水取りがニュースになるころには水も温み、餌である魚も活発に活動を始める季節となる。そのためかどうかは分からないが、何も19日でなくても、3月には、出現頻度は格段に上昇する。事実、今年もそうであった。3月12日にも大フィーバーが発生している。
3月に入ると単発的な出現はほぼ連日といってよいほどであると長年観察を続け、海岸の環境にも気を遣い、スナメリママさんと親しまれている上崎美代子さん。

「何時頃に出ますか?」とよく尋ねられる。例えば「大潮の時、潮が満ちてくる上げ潮時が良く出ます」と答えられるとよいのだが、自然は、そんなに几帳面ではない。
今年は、19日は若潮だったが、上げ潮の中間付近で多数出現した。逆に潮が引いていく下げ潮では出ないかといえば、そんなことはなく、今回を含め6回のケースでは、上潮時:4回、下潮時:2回であった。又、月の形状を基準にした潮の方は、大潮時:2回、中潮時:3回、若潮時:1回とこれもバラバラである。

水族館のようにスナメリのショーがプログラムされているわけではないので、現れる時間を答えるのは難問である。今回も、午後早い時間帯から来られていた2人の年配男性は、1時間半ほどで退場された。いつ始まるかわからないショー、最初はまるで動きがなかったが、幕は、突然開く。ただ、多少の前触れらしき動きがあることもある。自然界の観察では、小さな変化も見逃さない細心の注意も役立つことがあるので入場券は無料だが、忍耐券が必要である。幸運なら1時間券でも良いが、できれば3時間券か4時間券なら、遭遇の機会は格段に増すはずである。

スナメリを今や遅しと待ち受ける中、観察を始めてから2時間ほど経過した15:03、A区画の500mほどのところに、単発的だが1頭あらわれた。単発出現は、幸運にも視ることが出来た人と、惜しくも見落とした人がでてくるが、フィーバー的出現になると、たまたま海岸に散歩にきた人々も含め多くの人々がその感動を味わうことになる。
15:50、今度はC区画、目の前の通称テンカチ岩の沖50mほどに1頭、更にその11分後の16:01には、同じくC区画、150mほどのところを、満珠島方向へ波乗り状に3度背中を見せ移動していった。気が付けばカモメの群れも獲物を狙って数十羽が低空飛行している。中には海面に突っ込むのもいる。

16:05にC区画 海面の目印になる漁労用青旗の手前に突然水しぶきが多発、何頭かのスナメリのディナーが始まった。メインディッシュは、いつものボラか、それともチヌか? 多分、海の中は右往左往の大混乱と想像できるが、それに呼応してか海岸からこれを眺めている人間様の方も大いに興奮し奇声が上がる。大フィーバーが始まったのだ。

午後4時を過ぎ、6年目の大フィーバー的出現が確認されたところで、赤ちゃんから高齢者まで30余人の愛好者と、この海岸の常連のアフガンハウンド、ポメラニアンなどワンちゃん4匹が見守る中、上崎さん特製のくす玉が、クラッカーの弾ける音とともに割られた。
垂れ幕「祝:3.19 スナメリ日 決定 おめでとう」に笑顔がこぼれ、大きな拍手が続いた。これで丸坊主は免れた。気が付けば、空も心もすっかり晴れていた。

「その日」が過ぎた3月28日、ようやくこの地域にも昨年より3日遅れの開花宣言、いよいよ春本番だ。自然の営みは、毎年ゆったりと、しかし確実に繰り返されている。海の汚染は、過去5年で最多と海上保安庁七管本部の報道があったが、昨年はタンカー同士の衝突で流れ出た重油が関門海峡内の巌流島沖から、響き灘の沖まで広がった。

今回は、遠くは宇部方面からもこの海岸とスナメリに魅せられて、参加された方もおられたと聞いた。「昔は、この海岸からスナメリが見られたのだけれど・・・・」と言った第2のカブトガニのような時代がこないことを祈りたい。

スナメリは、ワシントン条約でジュゴンやシーラカンスと同じ絶滅が心配されている種として、最も保護すべき度合いが高い種に分類されていることは、あまり知られていない。

これからも多くの人々が関心をもって見守ることが、スナメリの保護にも繋がるのではないだろうか。食物連鎖の頂点いるとよく言われるスナメリの、最大の天敵は人類であり、最大の保護者もまた人類だから。

解説ボランティア:唐櫃 山人

注)A区画:海岸線を基線とし、視界180度を約6等分し、約30度毎に対岸の目標を決め、左から、A,B,C・・区画と分類し大まかな方向を示している。

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