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Vol.225 ARPフォーティ・エイト

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 台風にキティーやジェーンなど女性の名前が付けられていた時代があった。特にジェーン嬢には、直撃され怖い思いをしたので、今でも彼女の名前を聞くと当時の状況が思いだされる。最近のように毎年1から始まる番号だったら記憶の印象は少し変わっていたかもしれない。

生物にも分類・識別などの必要性からいろいろな名前が付けられている。代表的なものが「学名」。その命名の由来にはいろいろ経緯が隠されていることがあって面白い。海響館で最も多数派であるジェンツーペンギンもピゴセリス・パプア(P. papua)と命名されている。
最初、ペンギンには不似合いな熱帯の地名だが、パプアニューギニアと何か関係があるのだろうと思っていた。ところが実は、標本を分類する際に、出所を間違えたためらしい。

次に「地方名」。同じ生き物が、地域によって呼び方がことなるので紛らわしいが、これが学名のベースになっている場合がある。標準和名がキジハタは今や高級魚で、地元では県が、「キジハタを山口県の海で増やそう!」「全長30cm未満は獲ってはダメ」とPRしている。
地方名は、アコウとかアカミズとか言われているようだが、長崎の地方名アカアラ(赤荒)が学名E. akaaraとなっており、シーボルトが長崎で採集した標本より付けられたといわれている。

水族館では、水生哺乳動物に付けられることが多い「愛称」もある。これは公募の場合や、そうでなく飼育員の間での呼び名のときもある。イルカも開館1年半ほど前、「自然」や「科学」にちなんだ名前をと公募で選ばれた。
ダンは壇ノ浦のダン、続いてミライ(未来)、パール(真珠)、ティアラ(女王様の頭飾り)、アルカ(水族館所在地アルカポート)、そしてイリスは、ギリシャ神話の虹の女神。ダンを除き全て雌で、時代を反映してかカタカナ表記になっている。

名前の由来には、すぐに想像できるものと、ちょっと難解なものもある。海響館最年長の雌イルカで、今年出産をひかえている「ラナ」。旧水族館時代からのイルカで命名の由来を想像してみたが、生きている化石的わが頭脳では、往年の米映画女優ラナ・ターナーぐらいしか思い当たらない。
そこで、当時の関係者に訊ねてみたところ意外なものだった。旧水族館の時代に、TV放映されたアニメ:未来少年コナンに出てくる12歳の少女の名がラナであることが分かった。公募ではなかったようだが、当時のラナは子供達にはスーパーヒロインだったのだろう。イリスと同様、ギリシャ神話の何とかの女神ではないかと想像していたのが見事に外れた。

旧水族館時代には「雪州」というイルカがいた。室町時代の築庭で有名なあの水墨画家かと思ったら、こちらは「州」ではなく「舟」であった。入館13年目の平成8年5月、ショーを待つ入館者が見守る中急死している。

当時、雲海、白波、天の川、純、玄海、水無月など焼酎の名前が付けられており、雪州もその一つである。飼育員の中によほどの愛飲家がおられたのだろうと想像していたが、「ふざけて名付けたのではない」という。雲海は体つきがどっしりしていて「いかにも雲海だった」だったらしい。
当時の関係者によると、満珠(丸顔)、干珠(細身)、如月(色白)、水無月(色黒)などのイルカもいたそうだ。漢字志向のようにも思えるが、スージーやチコ、ガンモなどカタカナもある。スージーは細身で、ガンモは、ガンモドキのような容姿から、チコは焼酎の「いいちこ」とまたもや焼酎のお出ましである。
現在なら、先年来日したオバマ大統領にお土産として手渡されたと話題になった山口県の日本酒「獺祭」は格好の愛称になったかも知れない。因みに獺は、泳ぎが得意で水中生活に適しているカワウソだから水族館と縁がないこともない。

AKB48という女性のアイドルグループが人気だが、NMB48というのも出てきたらしい。近頃は、名前らしからぬ名前が多いと言えば古いと言われるだろうか。実は、彼女らと同じ発想の地名と番号の構成で個人的にARP(アルカポート)48と命名している魚がいる。と言っても、念仏を唱えるネンブツダイのようなシンガーではない。マンボウのNo.48である。
マンボウには愛称らしきものは聞かないが、開館以来、入館順に番号が付されている。今年から人間様にも付けられた、いわゆるマイナンバー制度の先取りで、ARP48は48番目に入館した個体ということになる。
5年前、ARP 36が飼育日数1,523日で海響館の最長記録を残していたが、展示中のARP 48は今年9月頃この記録を破るのではと期待をいだかせるほど元気に見える。
マンボウの飼育は難しいと言われている。何がそんなに難しいのかの問いに、ある専門家は、何が難しいかわからないから飼育が難しいと十数年前に言われていた。今は関係者の努力で当時より飼育技術も進み、データも蓄積され、より長期間飼育が可能になっているのではないだろうか。先日も、甘エビとスルメイカのミンチをベースにし、今流行りのプロバイオティクスを入れた栄養満点のマンボウ団子を5個も食べ、いつものんびりしている巨体が突然急発進を繰り返したりしていた。
運よくその日を迎えることが出来れば、くす玉でも割って来館者と日夜努力されている飼育員の皆さんと一緒に、ARP 48の長寿にお祝ができることを期待している。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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