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Vol.223 防災

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 海響館の2階にある熱帯雨林の生き物水槽にレッドテールキャットフィッシュが展示されている。大型ナマズのなかまである。赤みのある尾ビレが名前の由来となっているらしいが、1mほどの巨体である。厳めしい名前のわりには至っておとなしそうに見えるのだが、夜な夜な水族館を抜け出して海底で大暴れしているのではないだろうか。
7月上旬、未明に大分南部でマグニチュード5強の地震があった。近年の日本列島は、地震、火山噴火に、台風や竜巻、豪雨災害など自然災害が頻繁に発生している。中国で、地震予知の試みとして、鶏やサカナをそのための専用ゲージで飼育しているニュースが流れていたが、それまでスナメリしか見られなかった三軒屋海岸沖に、突然イルカが現れてから8日後の上記大分南部地震、中国の地震専門家にその関連性を伺ってみたいものだ。

9月1日は防災の日、毎年全国各地でいろいろな催しが行われる。一昨年、ヘリコプターで関門海峡を上空から眺める機会があった。市内の病院での防災訓練の一環である。この種ヘリは初めての体験だったが、離着陸時の体感はエレベーターのそれとあまり変わらない。救急車や救急医療の現場の貴重な体験もできた。
上空から三軒屋海岸沖のスナメリのテリトリーを一望できたことは幸いだった。イルカのように背ビレを持たないスナメリは、海岸からの視認は難しいが、上空からは水面から身体が出ていなくても容易に見つけられるはずである。しかし、今回は限られた飛行時間だったので残念ながらその姿を見ることは出来なかった。

防災訓練の重要性は、最近のように自然災害がたびたびおこる日本列島では、水族館も例外ではない。阪神淡路大震災では、須磨水族園が大きな被害にあっている。海外でも、アメリカ・オドゥボーン水族館がハリケーン・カトリーナの被害にあったのはちょうど10年前になる。東日本大震災でも、水族館「アクアマリンふくしま」や、「マリンピア松島水族館」も大きな被害を受けた。何れも被災から1~4か月で再開したが、後者は今年5月に88年の長い歴史を閉じている。

一方、7月1日仙台市に「仙台うみの杜水族館」が新しくオープンしている。数年前、同市の議員が海響館に視察に来られたとき話したのは、ちょうど上記レッドテールキャットフィッシュの水槽前だったことを思い出した。東日本大震災の前だったが、松島水族館の建て替えに関連した視察だったのだろうか。

生き物を扱っている施設の対応は難しい。水族館では特に停電は致命的である。停電しても、最近は自前のコージェネレーシヨンで、主な負荷を賄っている水族館も多いのではないかと思われるが、これも燃料が切れればそれまでだ。

交通網がズタズタな震災直後で、燃料の運搬もままならないような状態なら非常用発電機も同じである。病院での緊急時の治療の優先順位を決めるトリアージと、水族館の電力負荷への選択的な給電も似ているのではないだろうか。緊急時、限られたエネルギーを、優先順位を決めて使うことは、船内や航空機内や人工衛星内も同じだろう。魚のいる水槽へは最低限、ろ過のための海水循環ポンプと酸素供給用のブロワーが稼動していれば魚は当面生き延びる。
報道によると、水族館「アクアマリンふくしま」では、震災後、電気、ガス、水道が止まり、自家発電では飼育環境を完全に保つには足りなかったので、一部県外の水族館に移している。それでも、7日目には自家発電用燃料も枯渇している。エサ不足は深刻だ。餌用冷凍庫はどのくらい持ちこたえるのだろうか。

アクアマリンふくしまでは約20万匹の魚が死んだらしい。停電で水槽の水の循環や温度が維持できなくなったためだろう。大きな震災のたびに、水族館の多くの生命が失われた報道が繰り返される。素人考えだが、「海のいのち・海といのち」を救うために、大災害で電源の回復が当面望めない状態では、手動でバルブを開けば、即座に巨大な魚も小さな魚も全ての生命が失われる前に海へ放流できるバイパス水路のような設備を最初から組み入れておくことはできないのだろうか。
それにしても、ボランティア活動中に、不運にも大きな災害に遭遇したら冷静な行動がとれるかどうか、先の東日本大震災のニュースを聞いたのは、発生直後、ボランティア活動からの帰路の車中だったことを思い出した。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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