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vol.239 魚の海水浴

 土用の丑の日、「今年の暑さはいつもの年と違うなぁ!」と毎年、毎年同じことを言ってきたような気がする。そう思いながら、今年もまたそれを繰り返している。

 連日の猛暑、シーズン前、シラスウナギ(ニホンウナギの稚魚)の値段が少し下ったニュースがあったが、7月末から関門海峡の海水温度の方は、逆に平成25年の猛暑の年とほぼ同じトレンドで30度に向かってまっしぐらにウナギ登りだ。

 

 夏休みに入り、海も海水浴客で賑わっていることだろうと思っていたが、近年、海水浴客は減少気味らしい。海浜の砂の減少で閉鎖したところもあるとか。熱中症や日焼けの心配などの影響はないのだろうか。

 明治時代、日本でも海水浴が流行りだした頃、「吾輩は猫である」の中で漱石は、1歳何か月に足らない「吾輩」に、海水浴がなぜ健康に良いのかを魚を例に出してこんなことを言わせている。

 

 「あんなに広い所に、魚が何疋おるかわからないが、あの魚が一疋も病気をして医者にかかった試しがない。みんな健全に泳いでいる。病気をすれば体がきかなくなる。死ねば必ず浮く。洋行して印度洋を横断した人に君、魚の死ぬところを見た事がありますかと聞いてみるがいい。誰でもいいえと答えるに極まっている。魚はよほど丈夫なものに違いないという断案は、すぐに下す事が出来る。」と。

 

 「吾輩」にこれだけ大胆に断定されると、ちょっと反論したくなる。

 死んだり、弱ったりした魚は、たちどころに他の元気な魚の餌になってしまい、印度洋を横断する大型船などの高い甲板から見えるとは思えないが、漱石先生から、承知の上だ、仔細な理屈を言うなと叱られそうだ。当時の海は今よりずっとクリーンで、今月初めにもあった伊万里湾で赤潮が発生してトラフグやクロマグロが大量死したというようなニュースはほとんどなかっただろう。

 

 そして更に続けて、魚が丈夫なわけは、「潮水を呑んで始終海水浴をやっているから」であって、「海水浴の功能はしかく魚にとって顕著である。魚に取って顕著である以上は人間に取っても顕著でなくてはならん。」と。

 近頃話題になった「海洋深層水」入りの飲料水を先取りしたかのようで、メーカーが大喜びしそうな内容だ。先生が知ったら、100年以上も前に「吾輩」に言わせたことは誠に先見の明があったと、続編「吾輩は魚である」に取り掛かるかもしれない。

 

 深層水といえば、祇園祭りで有名な八坂神社では、「祇園水」として海洋深層水を売っているらしい。この神社のホームページによると、身体が求める「お水」、特に海は生命の根源、我が国神話の初め、海洋神として誕生したスサノオノミコトを祀る京都祇園の八坂神社から海の深層水を原料とした「お水」を作りました、とある。

 夏の暑さ対策、特に熱中症にご利益を期待して、次回訪ねるときはお土産リストに入れておこう

 

 魚の「海水浴」はともあれ、栄養学的にも現在では魚の効用は、健康食として持てはやされている。ところが、野菜や魚が優先されていた健康情報も、最近では、筋肉が衰える高齢者は、やはり肉類も食べるべしと潮の流れが変わってきたようだ。何事もバランスがとれた食事と、耳が痛いことだが規則正しい生活が大切ということだろう。

 

 その規則正しい生活というのがなかなかむずかしいのだが、魚には昼間眠って夜に活動する夜更かしタイプや、反対に人間と同じように規則正しく暗くなると眠る睡眠タイプがいるという。そんな中で、健康優良児的なのはベラの仲間だ。ホンベラは、人間と同じで、夜暗くなると眠りにつくらしい。

 

 東海大の西源二郎客員教授によると、この魚の面白いところは、夜眠るときに、砂の中に潜る習性があること。横に体を倒すようにして砂に潜り朝まで眠るという。

 朝起きる時は、まだ暗く、他の大型魚が起きる前に起きだす。これは安全の為で、砂の中から突然水中にでて、大型の魚食魚に出くわすのを避けるためとか。

 

 驚いたことに、実験水槽では、設定された電気が点灯する約10分前には起きだすのだそうだ。一日中明るくしていても、暗くしていてもこのベラは夜には砂に入り、朝になったら起きて、周囲の明暗には無関係という。

 昼夜逆転させると、生活が逆転するのに約2週間も要するらしい。(それだけ体内時計が強く支配している)砂の中で眠るタイプのベラは体内時計がしっかりしていて、時差ボケが起こりにくい魚という。やはり身の危険回避が最優先課題だからだろうか。

 

 人類もそんなに遠くない昔、日の入りと共に寝て、日の出と共に起きる生活が長かったのだが・・・

 ところで、海が人の健康に大いに寄与していることはさておき、海そのものの健康はどうなのだろうか。本館のコンセプトにある「海といのち、海のいのち」の後段部分でもある。あらゆる人間活動の結果が海の汚染にもつながることが多い。海洋神スサノオノミコトの忍耐もそろそろ限界にきているのでは?

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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