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vol.237 古生代のタイムカプセル 再び

 開館から3度目の春 (2003年)、シーラカンスの企画展が開催された。本物のシーラカンスを見たのは初めてだった。ホルマリンの液浸標本で、40年近く経過しているためか体色は変色していた。元は暗い青で、死後、紫や褐色などに変るらしい。しかし、これがあの「20世紀最大の生物的発見」といわれる古生代のタイムカプセル:シーラカンスかと驚きと感動が入り混じった初対面だった。

その時の印象を、あくあはーつ通信(Vol.52 古代魚シーラカンス)に投稿したが、今、読み返してみると当時の記憶がいろいろとよみがえって来た。

 

 貴重な標本のためか、シーラカンスの搬送には活魚トラックを使用、水槽の中に水槽を入れて揺れを防いだと聞いている。水槽の液面にシーラカンスから出た油膜がまだ漂っていた。世界で最初に捕獲された直後のシーラカンスも魚体から大量の油がしみだしていたようだ。

 特に印象的だった胸ビレ、腹ビレの基部は太い幹のようで、両生類へ進化の兆しかと想像された。下顎付近に見える2枚の長方形の喉板も奇妙な感じがする。口の右端は、針がかかった様な跡があるが1本釣りされたのだろうか。

 

 身体のわりには眼が大きく見える。小さい脳は意外だった。一般的に、サンゴ礁などに住み、複雑な動きをするスズメダイやチョウチョウウオの仲間の脳は相対的に重く、一方、緩慢な動きのアンコウやカレイの仲間の脳は相対的に軽いのだそうだ。シーラカンスの脳は後者なのかもしれない。

 

 あれから14年。1尾目のシーラカンスが1938年に南アで発見されてから、£100の懸賞金付きで2尾目が発見されるまでの期間と期せずして同じ年月である。再発見時、1尾目の対応遅れの轍を踏まないように南ア政府は空軍を派遣して収容している。

 

 前回の企画展以降も、シーラカンスに関する新しい発見がいろいろ報道されてきた。生まれて間もないと思われる31.5cmの稚魚がインドネシアで初めて発見されたのは2009年、さらに、2011年には遺伝子解析で、コモロ諸島産とは別の集団の新繁殖地がタンザニア北部沖だと突き止められている。

 

 中国で4億9百万年前の化石発見のニュースは、5年前の2012年。3.8~3.9億年前からその姿はほとんど変わってないとされてきたが、それを更に2~3千万年ほど遡った。

 

 又、2013年には、ゲノム解析により両生類など四肢動物に最も近いのはシーラカンスでなく肺魚で、シーラカンスは、肺呼吸ができる肺魚より原始的な存在というニュース。これには少し驚いた。

 それまで来館者には、シーラカンスが両生類に進化したと解説していたが、ニュース以降、この話題は、オーストラリア肺魚の水槽前で話すことにしている。とはいえ、手や腕に進化したと推測される胸ビレは肺魚よりシーラカンスの方が力強くて、それらしく見えるので、子供達は疑問に思うかもしれない。

 

 そして一昨年、シーラカンスの体内に、進化の過程で退化した肺が発見されている。祖先は数百万年前、肺呼吸をしていた可能性が高いらしいが、何故、退化したのだろうか、そして、なぜ魚類から両生類に進化するのを止めたのだろうか。新しい発見があるたびに疑問が湧いてくる。

 

 又、昨年の7月、新種シーラカンスの化石が確認され北九州市の博物館で展示された。インドネシアで見つかった約2.3億年前の化石で、東南アジアでシーラカンスの化石が見つかるのは珍しいのだそうだ。

 

 前回の企画展後、2Fに常設展示されていたが、水槽上部に「生きている化石」と書かれているのを見た小学生からしばしば「これ、ほんまに生きてるの?」と質問がくる。生きているようだが、色も褪せているので「ちょっと変やなぁ?」と思ったのだろう。それで、いつも元々は暗い青で、白い斑紋があることを話すようにしている。

 「生きている化石」は、チャールス・ダーウインの有名な「種の起源」の中での造語らしいが、前後が一致しない表現になっているので誤解されやすい。

 まず化石の話からスタートし、地質時代から、発見当時の状況など少し時間をかけて誤解を解くことになるが、疑問をだき質問してくれた小学生はよく聞いてくれることが多い。

 

 化石の新発見のニュースはよく目にするが、「生きたシーラカンス」の展示はまだ夢だろうか。同じく「生きている化石」と呼ばれる「生きたゴキブリ」は身近にみるのだが・・・。

 

 くしくも、夏休みも近い7月8日からシーラカンスの夏季特別企画展が始まる。来館者からは定番の「食べられる?」「どんな味がする?」「何歳?」から始まり、「ナゼ生き残ったの?」「生きたシーラカンス展示しないの?」などの難問がでてくるかもしれない。この機会に少しでも疑問が解けるとよいのだが、期待が膨らむ夏になった。

 

解説ボランティア:唐櫃 山人

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