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第174回 「動物たちへのキュー」

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 皆さんは、水族館でトレーナーが動物たちに様々な合図を出しているのを見たことがあると思います。この合図は、弁別刺激(べんべつしげき)やキューと呼び、これによって動物の特定の行動が起こるようにしています。例えば、海響館ではトレーナーが手を肩から斜め上に上げる動きをイルカの水平ジャンプのキューとしており、そのキューが出た時にはイルカは水平ジャンプをし、それ以外の動きでは水平ジャンプはしないということになっています。これと同様に一つ一つの行動に別々のキューがあり、トレーナーは動物とコミュニケーションをとる一つのツールとして用いているのです。

 キューは、動物が認識できるものであれば何でも良く、次のように分類されます。手や体の動き、光など視覚的なもの、声や音など聴覚的なもの、体に触れるなど触覚的なものです。使われることはほとんどないと思いますが、臭いを使った嗅覚的なものもキューとして成立するはずです。トレーナーは、状況や行動の種類によってこれらを選択しトレーニングによってキューとしての意味を持たせていきます。

 このキューは一度決めて長い間使っていても変えることができます。一つの例を紹介しましょう。ショーでのパフォーマンスや健康管理のための行動の誘発などでは、使いやすさから視覚的や聴覚的なキューを使うことが多いのですが、動物が高齢になってくると目が見えにくくなってきたり、耳が聞こえづらくなったりしてくるので、それらが伝わりにくくなります。そのようになってきた場合は、視覚的もしくは聴覚的なキューと一緒に体に触ることを加えて行動を起こすよう繰り返し、少しずつすり替えていくのです。例えば、海響館で使っている「口を開ける」というキューは右手の人差し指と親指を閉じて開く動きです。動物の目が見えにくくなってきたなと感じたところから、同じキューに下顎を触ることを付け加えます。そして、徐々に視覚的なキューを出さなくしていった結果、「鼻先に触れた状態で下顎を軽く触る」ことを新たなキューとしました。

 キューによって様々な行動を誘発するのは、動物たちに運動をさせることや考えるなど健康に生活するために必要なことであり、また体のチェックをしたり体温測定などの日々の健康管理を行うために必要不可欠なことなのです。動物が年齢を重ねても健康に暮らしていけるよう、トレーナーは細かな気配りをしているのです。

海獣展示課

髙木陽友美

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