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アマミホシゾラフグよもやま話
アマミホシゾラフグという魚をご存知でしょうか。生き物好き、お魚好きの方はご存知かもしれませんね。海響館では、長きにわたってこのアマミホシゾラフグの稚魚育成に挑戦してきました。この取り組みは全国の水族館の中でも海響館しか行っておらず、過去最高の飼育期間はふ化後60日でした。そして今年、その記録を超え、世界初の稚魚展示まで到達することができたのです!今回はアマミホシゾラフグにまつわるあれこれを皆さんにお話しできたらと思います。
そもそもアマミホシゾラフグとは、2014年に新種登録され、2015年には世界の新種10種にも選ばれた注目度の高いフグです。奄美大島の水深20mほどの砂地に、大きなミステリーサークルを描くことで知られます。彼らの体の20倍もの大きさがあるミステリーサークルですが、綺麗な円や放射状の模様は、まっさらな砂地に目印もなしに描かれたことが信じられないほど見事なものです。そのミステリーサークルは、卵を産み付ける産卵床として活用されます。産卵期になると、オスの描いたミステリーサークルにメスが訪問し、サークルの中心で産卵が行われるのです。
そして実は我々、毎年奄美大島へ飛び、アマミホシゾラフグの撮影や卵の採取を行っています。その期間なんと今年で12年目!世にも珍しいミステリーサークルを描く”フグ”だなんて、海響館が調査研究しないわけにいかないじゃないか!という情熱を持って、毎年のように卵の採取から稚魚の育成に挑戦していました。ここ数年は採卵の許可が降りず、卵の採取ができていませんでしたが、現地の方々の協力のお陰で4年ぶりに卵の採取ができました。写真は、今年の5月に奄美大島でアマミホシゾラフグの卵を採集している様子です。ミステリーサークルの中心からそーっと慎重に卵をすくい上げます。といっても、アマミホシゾラフグの卵は透明なうえに極小サイズ。肉眼、しかも水中ではよく見えないのでほぼ勘ですくい取っています(!)。陸に帰ってから卵がきちんと取れていることを確認し、胸をなで下ろしました。そして飛行機と車で奄美大島から下関への大移動。無事、海響館へと連れて帰ってくることができました。
ふ化したのは500匹ほどでした。体長はおよそ3mmで、まだフグであることが分からないほど。しかしそこから20日もすれば形はすっかりとフグになっていきます。32日目に撮影した写真を見ると、肉眼でフグであることが分かるような大きさまで育ってくれていますね。この時期になるとスタッフたちが口々に「フグだ……!」と言っていました。もちろんフグを育てているつもりだったのですが、こうもフグらしくなってくると「本当にフグだったんだ……!」という気持ちが不思議と沸き上がってくるのです(笑)。ここに至るまで、飼育環境の整備や効率的なエサやりなど、観察と考察を繰り返しながら神経を尖らせる日々でした。未知の領域である60日目以降も、暗中模索ながらすくすくと体は大きくなり、2024年8月27日現在でふ化してから93日、体は3cmほどまで大きくなりました。体表には名前の由来である星空のような白い斑点も見られるように。今後は、引き続き稚魚の育成を続けながら明らかになっていない成長過程を記録していきます。ゆくゆくは、海響館でふ化したアマミホシゾラフグの成魚を皆さんにお見せしたい……!まだまだ挑戦は続きます。どうか温かく見守っていただけたらと思います。
魚類展示課 皆川 梢