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日本初記録のカニの発見物語

 海響館では、水産庁の「我が国周辺水産資源調査・評価推進委託事業」で得られた標本を使って山口県水産研究センター、萩博物館と共同で山口県日本海沖の海洋生物相の解明を進めています。

 この調査で、日本沿岸で初めて見つかり、海響館スタッフが和名をつけた「アカスジコブシ」というカニを報告しました。今回はその発見から和名提唱までの話をしたいと思います。

 

 この調査では、山口県漁業調査船「かいせい」の調査で底曳網の一種の桁網で採集されたものを用いて調査をしています。

 網に入ったものを見てみると、魚類や貝類はもちろん、エビ、カニ、シャコ、サンゴ、ナマコ、ウニ、ヒトデの仲間など非常に多種多様な生き物たちが見つかります。またそれぞれ分類群ごとに分けてみると、少なくともカニだけで30種程度はいそうです。これは大変です!

元々私はカニの研究者ではなく、甲殻類について詳しいわけでもありません。しかし、これもせっかくの機会!何事にも挑戦なくして得られるものはありません。自身の勉強も兼ねて図鑑や論文とにらめっこしながら、普段見ない甲殻類を同定(簡単に言うと種を確認すること)していきました。

 

 

 すると、作業が全体の半分くらいが終わったところで、小さなカニの仲間が目に留まりました。甲が丸く、背面に赤い線が多数あるのがわかります。形からはどうやらコブシガニと呼ばれるカニの仲間のようです。しかし、手持ちの図鑑の中にはこのような模様を持つ種はいません。その時にはどこかの図鑑に載っているだろうと軽く考えていました。その後も作業を続けると合計で4個体の同種と思われるカニが見つかりました。

 

 水族館には図鑑がいくつもありますが、それらを見てもなかなか見つかりません。そうなると、次は海外産の種についての論文を調べてみます。

 現在コブシガニの仲間は世界で11種が知られ、その一つ一つについて調べてみました。すると、どうやらこれまでフィリピン、インドネシア、オーストラリア、インドなどからしか見つかっていないEuclosiana crosnieriという学名の種のようです。そして同時にこの種に対する和名がないことがわかりました。

和名を提唱する場合は、ネットやSNSなどに載せるのではなく、学術論文で提唱しなければなりません。早速論文の執筆にとりかかりましたが、ここで大問題が発生!!

 

 良い和名が思いつきません。。。。。なんという語彙力の無さでしょう。。。。。( ;∀;)

 

 せっかくの機会なので、展示スタッフだけではなく、営業、経理、総務など海響館スタッフ全員にアイデアを募集しました。山口県で獲れたオレンジ色のカニなので、「ダイダイコブシ」、模様から「タテスジコブシ」など、私では思いつかなかったいろいろなアイデアが出て、その中でも、この種の特徴をより分かりやすく表している「アカスジコブシ」としました。この論文は令和3年12月20日に出版され※、その標本を期間限定で展示しました(展示はすでに終了しています)。

 

 

 今回の調査で得られた標本はまだすべてが精査できているわけではありません。もしかすると他にも日本初記録や新種が見つかる可能性があります。

 今回得られたのは、死亡したものだけで、私も生きた個体を見ていませんが、いつか生きた個体が入手し、展示できるのを心待ちにしています!期待して待っていてください!

 

※論文:園山貴之.2021.アカスジコブシ(新称)Euclosiana crosnieri (Chen, 1989)(十脚目:短尾下目:コブシガニ科)の日本初記録.日本生物地理学会会報,76: 10–14.

 

魚類展示課 園山貴之

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