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ホホジロザメ、あらわる!!

水族館の周りの海にどんな生き物がいるの?この素朴な疑問に生物の採集や調査を通して迫れるのも水族館職員として働く醍醐味です。ときに私達は珍客や大物に出くわすこともあります。
今回は、山口県の瀬戸内海で出会った「大物」のお話です。

★「大物」、入網する
2022年5月22日、山口県瀬戸内海側にある「なぎさ水族館」から海響館に、「ホホジロザメが地元の漁師さんの網に入った!」と連絡がありました。ホホジロザメは最大で6mになる大型のサメで、ときに海洋哺乳類をも捕食する海の頂点捕食者。南は沖縄県から北は北海道まで分布するサメですが、その記録は少なく、滅多に出会える生き物ではありません。現場に向かうと、既に死んでしまっていたものの、初めて見る本物のホホジロサメが!

★大物の宿命?出会ってすぐに解剖へ・・・
初めて生でみたホホジロザメですが、全身をとっておくことはできませんでした。5月の気温では、死んでしまったサメの体はどんどん腐ってゆきます。なぎさ水族館にも海響館にも、大きなサメを冷凍保存する設備はおろか、サメを運ぶトラックもありません。ならばしっかり観察して、必要な部位だけでも保存しよう!ということで、この個体の大きさを測定した後、解剖することになりました。

★知り尽くせ!ホホジロザメ!
まず大きさは全長約3.3m、推定体重は約300kg。次に目に入るのは獲物の肉を切り裂くためのノコギリ状の歯。ホホジロザメの特徴であるこの歯と顎は乾燥標本にするために保存。胃袋はからっぽでした。海外の事例では海洋哺乳類や鳥類がでてくることもあるようですが、このサメは空腹だったのかも?お腹にぶら下がる2本の長い器官は、サメの「おちんちん」。成長とともに長くなる「おちんちん」が立派であることから、オスのおとなのサメであることがわかりました。この他にも、皮膚についた寄生虫や、皮、ヒレなど、貴重な標本を得ることができました。

★ 実際どれくらいいる?瀬戸内海のホホジロザメ
ここで次なる疑問。私は文頭でホホジロザメについて「滅多に出会えないサメ」と書きましたが、実際瀬戸内海にはどれくらいホホジロザメがいるのか。過去の研究者が残した論文を読んでみると、最後にとれたのは29年前の1992年。なるほど、これは珍しい。と思いきや、新聞や雑誌など、いわゆる学術的でない記録を調べてみると、1982年から今まで、実に9個体ものホホジロザメがとれていることがわかりました。
思っていたより多い!

ここで、海水浴に行くのが怖くなった皆さん、朗報です。
過去にホホジロザメが記録されたのは、ほとんどが3月から6月。海開きシーズンの前ですのでご安心を。ホホジロザメは日本近海を南北に回遊する生き物です。長い回遊の途上、決まった時期に瀬戸内海に立ち寄ることがあるのかも。また、ホホジロザメは回遊の途上、浅場と深場を頻繁に行き来することも知られていることから、漁師さんの網に入っている個体が全てとは言えず、実際にどれくらいホホジロザメが瀬戸内海にいるのかは、今後も調査を続けていく必要があります。

★ホホジロザメが教えてくれたこと 
今回のホホジロザメは、海響館の周りの海には私達が思っているより、様々な生き物がいるかもしれない、ということを教えてくれました。今回の調査から、大きなオスのホホジロザメが瀬戸内海には確かにいて、ホホジロザメは思っていたよりたくさん瀬戸内海に生息しているかも・・・ということがわかりました。このことは、ホホジロザメに限らず、海響館の周囲の海には意外な生き物が暮らしていたり、私達がまだ知らない生態系が広がっているかもしれない、と想像させてくれます。
私達はこれからも海に学びながら、地元の海の豊かさを皆さまに展示を通してお伝えしていきます。

魚類展示課 荻本啓介

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