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水族館の調査研究

 

 水族館の職員の仕事は生き物の飼育管理、繁殖、展示、企画など多岐にわたります。その中に調査研究も含まれます。調査研究をした内容は、研究会や学会での発表や論文として報告します。今回は私が執筆した報告について紹介します。

 

 タイトルは、「山口県初記録のホソヤギ科(花虫綱:ウミトサカ目)3種」
ホソヤギ?花虫綱??ウミトサカ目????

 たぶん多くの方がこの言葉を聞いても、どのような生き物か想像することが難しいのではないかと思います。では写真を見てみましょう。

 

 

 木の枝??????ヤギのエサかな????写真を見ても生き物かどうかすらわからないですね。

 この花虫綱、ウミトサカ目の「綱(こう)」、「目(もく)」とは、分類階級のことで、例えば私たちヒトという種は、現在では、「哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト」とされており、これは、哺乳綱というグループの中の、霊長目というグループの中の、ヒト科の中の、ヒトという意味です。今回の報告のホソヤギ科は、花虫綱というグループの中の、ウミトサカ目というグループの中にある、ホソヤギ科の内、山口県で初めて確認された3種を報告したものです。

 この花虫綱は簡単に言うとサンゴやイソギンチャクの仲間が含まれます。そう、この木の枝のようなものはサンゴの仲間です。

 

 

 

 サンゴと言っても、南の島にあるような硬いサンゴではなく、宝石になるようなサンゴでもありません。また、今回報告したホソヤギ科の仲間たちは、食用になるわけではなく、水産上重要とは言えません。では、なぜ一見利用価値がないこのような生き物の調査研究をする必要があるのでしょうか。

 

 一つは、どこにどんな生き物がいたのかをきちんと記録しておくためです。
水産上重要な種ではないのであれば、なおさら誰も目にとめません。もしかしたら数年後には山口県からはいなくなってしまうかもしれません。そうなると、誰にも気づかれることなく山口県から一つ種が消えてしまうことになり得ます。「今」、「この場所に」、「どのような生き物がいたのか」を記録しておくことは今しかできない重要なことです。

 

 もう一つは、生物の多様性を理解するためです。

 地球上には様々な生き物がいます。現在同じ種とされていても、まったく同じではありません。このホソヤギ科のサンゴは、皆さんの生活の中で見る機会はほとんどなく、一生知らずに終わる人も多くいます。しかし、ヒトと直接かかわっていなくても、間接的にはすべての生き物に関わり合いがあります。その生き物がいるのといないのとでは、影響の大小はあるのでしょうが、私たちヒトも、まったく影響を受けないとはとても言い切れません。今は分かっていないだけで、今後私たちヒトにとって有用なことがわかるかもしれません。

 

 海響館でも取り組んでいるSDGsでは、「14. 海の豊かさを守ろう」という項目があり、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」とあります。今そこでしか見れないものばかりになるのではなく、いつまででも見ることができるように自然の豊かさを守っていく必要があります。

 そのためにも、この海響館の周りにどのような生き物がいるのか、これからも調査を進めていきたいと思います。もし、見たことがない生き物を見つけた!という方がいれば、是非海響館にご連絡ください。

 

報告は下記からダウンロードできます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmnh/19/0/19_27/_article/-char/ja

 

魚類展示課 園山貴之

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