No,008:カラス

No,008:カラスTakifugu chinensis (Abe, 1949)

 

 

 「カラス」と聞けば、皆さん「カァー、カァー」と鳴いている鳥のカラスを思い浮かべるでしょう。日本にはハシブトガラス、ハシボソガラス、ワタリガラス、ミヤマガラスなどが分布しており、これらはカラス科カラス属に含まれていますが、改めて見ると和名が「カラス」という鳥はいないようです。

 

 では「カラス」という和名の生き物はいないのでしょうか。実は「カラス」という和名はフグの仲間にいます。カラスはフグ目フグ科トラフグ属に分類され、トラフグとよく似ています。しかし、背面は黒色で模様はなく、臀鰭はトラフグが白いのに対してカラスは黒いのが特徴で、トラフグとは区別することが可能です(山田・柳下,2013;松浦,2017)。なぜカラスとつけられたのかは定かではありませんが、背面などが黒っぽいことからつけられたのでしょう。

 

 先述のように、外見的によく似たトラフグとカラスを区別することはできます。しかし、両種を識別できても、カラスという種を認めるかどうかは研究者の間で異なっています。Raza et al. (2008)では遺伝的解析によりカラスはトラフグのシノニム(トラフグと同種)であるとされ、Dyldin et al. (2016)や、本村(2020)もそれに従っています。一方,松浦(2017)では両種は産卵場所の水深に違いが見られることから別種として扱っています。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも両種を区別しており、しかも、2011年にカラスは野生絶滅の次に当たる「絶滅寸前(CRITICALLY ENDANGERED)」に分類されています。

 

 フグはえ縄の漁師さんに話を聞くと、たしかにカラスとトラフグとでは針にかかる水深帯が違っていると認識されており、市場ではトラフグとカラスを区別しています。ただ、中には背面に模様があるのに臀鰭が黒い,背面に模様がわずかにあり,臀鰭の色が白と黒が混在するなど両種の特徴を持ったフグも漁獲されます。昔は真っ黒いカラスがいたのに、今はほとんどいないと言われる方もおられます。実際、トラフグ属魚類は非常に近縁で、すべての組合せで交雑することが可能であるとされています(Yamanoue et al., 2009;山野上,2015)。そのためトラフグとカラスの交雑も可能です。もしかするとトラフグとカラスの交雑が頻繁に海で起こるようになったのかもしれません。

 

 トラフグなどが近縁だとしても、トラフグ属は種により毒の分布が異なるので、そのような意味でもフグを分類しておくことには大きな意味があります。ただ、両種は毒の分布は同じであることが知られており、毒力も同レベルであったとされています(加納ほか,1984)。

 

 もしかすると、これから数十年後には、トラフグとカラスの交雑のような個体でさえ漁獲されない可能性もあるかもしれません。市場やスーパーに並んでいるトラフグを見ることがあれば、臀鰭の色も見てみてください。それははたしてトラフグでしょうか。カラスでしょうか。。。

 

引用文献:

Dyldin, Y. V., K. Matsuura & S. S. Makeev. 2016. Comments on Puffers of the Genus Takifugu from Russian Waters with the First Record of Yellowfin Puffer, Takifugu xanthopterus (Tetraodontiformes, Tetraodontidae) from Sakhalin Island. Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A, 42: 133–141.
加納碩雄・野口玉雄・大塚正人・橋本周久.1984.カラスFugu rubripes chinensisとトラフグFugu rubripes rubripesの毒力の比較.食品衛生学雑誌,25:436–439.

松浦啓一.2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,秦野.xiv + 127 pp.

本村浩之.2020.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.560 pp.

Reza, M. S., Furukawa, S. Mochizuki, T. Matsumura, H. & Watabe, S. 2008. Genetic comparison between torafugu Takifugu rubripes and its closely related species karasu Takifugu chinensis. Fisheries Science, 74: 743–754.

山田梅芳・柳下直己.2013.フグ科.中坊徹次(編),pp. 1728–1742, 2239–2241.日本産魚類検索―全種の同定 第3版.東海大学出版部,秦野.

Yamanoue, Y., Miya, M., Matsuura, K., Miyazawa, S., Tsukamoto, N., Doi, H., Takahashi, H., Mabuchi, K., Nishida, M., & Sakai, H. 2009. Explosive speciation of Takifugu: another use of fugu as a model system for evolutionary biology. Molecular Biology and Evolution, 26: 623–629.

山野上裕介.2015.フグ目魚類の多様性と系統,そして分類.タクサ 日本動物分類学雑誌.39:1–16.

 

魚類展示課 園山貴之

2020年08月11日